地表や海洋の平均気温が長期スパンで上昇を続ける地球温暖化現象が注目され始めたのは1990年代の初めのことです。それ以降、具体的な対策の必要性が叫ばれるようになり、さまざまな取り組みが行われてきました。パリ協定もその一つです。ただ、それがどういったものなのかについてはよく知らないという人も少なくありません。そこで、地球温暖化の現状を踏まえつつ、パリ協定やそれに付随した取り組みについて解説をしていきます。
国際的な枠組み「パリ協定」とは?
2015年12月に第21回気候変動枠組条約締約国会議、いわゆるCOP21がパリで開催されました。その際に採択された国際的合意が「パリ協定」です。そこには地球温暖化を防ぐために世界各国が一丸となって取り組むという内容が盛り込まれています。
具体的な目標としては「世界の平均気温上昇を産業革命以前と比べて2度以内に抑え、さらなるリスク低減のために1.5度未満に抑えるように努力する」「なるべく早い段階で温室効果ガス(GHG)の排出量を増加傾向から減少傾向に転換し、今世紀後半までに人為的なGHG排出量を実質的にゼロにする」という2点が挙げられます。
この協定が画期的だといわれているのは全世界的な規模の取り決めとなっているからです。たとえば、パリ協定の前身である京都議定書は先進国のみにGHG排出量削減を求めたものであり、これでは地球温暖化対策としては十分な効果は望めません。実際、京都議定書を定めた1997年以降、途上国は経済発展を遂げ、その影響でGHGの排出量も急増しています。しかも、途上国が目標達成の義務を負わされないという事実は参加国の間に不公平感を生じさせる結果となり、目標達成の意欲を大きく減退させることになってしまったのです。
それに対して、パリ協定ではGHQ排出量に換算して、実に9割近くにあたる国が参加しています。各国の姿勢も以前より意欲的です。そのため、京都議定書に比べて大きな効果が期待されているというわけです。
さらに、パリ協定では目標値がボトムアップ方式になっている点も見逃せません。京都議定書の場合、上から目標値を押しつけるトップダウン方式でした。しかし、各国の事情を踏まえずに掲げられた目標値には公平性及び実効性の点で疑問符が付きます。それに対して、パリ協定では各国が自国の事情を織り込んで目標値を設定することが認められています。ちなみに、このボトムアップ方式は協定の合意に至るプロセスの中で日本が提唱してきたものです。
ただ、各国が勝手に目標を決めたのではその値は、自国の経済になるべく負担がかからないようにと、小さなものになりがちです。そうなると、地球温暖化の防止という大きな目標が達成できなくなってしまいます。そこで、正式に目標を掲げる前に事前協議を行い、なぜその目標値が妥当なのかを科学的に説明しなければならないという決まり事を新たに追加したのです。その上で、国際的な評価を受け、ようやく正式な目標値として認められることになります。
それに加え、目標値については達成義務を課さない代わりに専門家による評価を義務付け、GHG削減の取り組みを真剣に行っているかを一目で分かるようにしています。一方で、目標達成が困難な途上国には意欲的な取り組みが可能となるよう、資金援助の仕組みも強化しました。そして、5年ごとに取り組みの進捗状況を確認し、それを踏まえて新たな目標を設定することによって、協定が形骸化しないようにしているのです。
このように、地球温暖化対策の取り組みが単なる掛け声だけに終わらないよう、さまざまな工夫を凝らしているところもパリ協定の画期的な点だといえるでしょう。
地球温暖化の影響は深刻で加速している!
科学的な気温の観測は19世紀から始まっていて、そのデータに基づいて平均気温の統計が取られています。それによると、地球の平均気温は1906~2005年の100年間で0.74度上昇しており、長期的な温暖化傾向にあるのは間違いないとされています。そして、その主な原因として考えられているのが産業活動などによって排出されるGHGです。
問題はそれが環境にどのような影響をもたらすかですが、主な事例としては「北極海における海氷の減少」「土壌中の有機物からの炭素放出量の増加」「豪雨リスクの増大」「山火事の急増」などが挙げられます。その結果、棲みかを失ったホッキョクグマが絶滅の危機に瀕し、水面上昇によって南太平洋の島々はその一部が水没するなど、すでに深刻な影響が数多く報告されているのです。
また、こういった現象は負の連鎖となって地球温暖化を加速させていきます。たとえば、夏場における北極の氷がほとんど融解してしまったことによって太陽の熱エネルギーがダイレクトに海に吸収されるようになり、地球温暖化に拍車をかけているといった具合です。一方で、地球温暖化によって増加した水蒸気も気温上昇に一役買っています。それらに加え、本来GHGの吸収源であるはずの森林も土壌中の有機物が炭素を大量に放出することによって、放出源に転じる地域が増加しているという事実があります。つまり、これらの相乗効果により、地球温暖化の現象はかつて考えられていたよりも加速度的に深刻化しているといえるのです。
ちなみに、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第5次評価報告書によると、今世紀末には最悪の場合、地球の平均気温が2.6~4.8度まで上昇する可能性があるとしています。そうなると、日本でも春や秋が真夏並みの暑さとなり、夏季の日中にはまともに外を出歩けないといった状況にすらなりかねません。降水量は湿潤地域と乾燥地域の差が一層激しくなり、干ばつやゲリラ豪雨による被害の増大が懸念されます。その上、気候が劇的に変化すると、農作物の品質は落ち、収穫量も激減してしまうおそれが出てくるのです。さらに、海では海水温度上昇と海洋酸性化によって海中のプランクトンが減り、日本の漁業に深刻なダメージを与えることになります。
しかも、こういった事例は懸念されるリスクのほんの一部に過ぎません。もし、これ以上地球温暖化が加速化していくことがあれば、予想もしなかった大規模な災害が引き起こされることも十分にあり得るのです。
「COP24」温暖化対策として採択されたことは?
2018年の12月2日からポーランドのカトヴィツェで開催されたCOP24は、キーワードが「パリ協定」だったこともあり、大きな注目を集めました。そして、2週間に渡って話し合いが行われ、パリ協定の具体的な実施ルールが採択されることになったのです。まず、100ページを超える細則が決まり、それに基づいて2020年より各国が温暖化対策に取り組んでいくことになりました。なお、GHG削減目標などの検証については途上国と先進国で差をつけず、共通のルールに基づいて行うことで合意を得ています。
もっとも、これに関しては途上国と先進国ではルールに差を設けるべきだという根強い意見がありました。しかし、一旦分けると途上国が今後発展して先進国になったときに途上国ルールに従い続けるといった事態になりかねないということから、ルールは統一しつつも、途上国に関しては緩やかな適用を認めるという条件で決着をみています。一方、COP21で決定した2025年からの途上国への資金支援をどのように行うかも大きな議題でしたが、こちらは支援の総額目標に関する交渉を2020年から開始するとしています。
まだまだ決めなければならないことは山積していますが、パリ協定実施の方針で合意に達した点は大きな前進だといえるでしょう。
まとめ
パリ協定の採択によって地球温暖化対策は大きな前進をみせました。国際的な取り決めの壁となっていた自国優先の考え方を粘り強い交渉とさまざまな工夫で乗り越えた事実は、未来に対して大きな希望をもたらすものだといえるでしょう。その一方で、地球温暖化の影響は加速度的に深刻さを増し、予断を許さないところまで来ています。今後、世界各国がこの問題に対し、どのように取り組んでいくのかが注目されるところです。