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消費税の「軽減税率制度」が実施!事業者に関わる大きな影響とは?

消費税は、消費に対して課される税金のことをいい、日本では1989年に導入されています。導入当時の税率は3パーセントでしたが、国の財政悪化に伴い1997年には5パーセント、次いで2014年には8パーセントに増税されました。しかしながら、これでは十分ではなく2019年にはさらに10パーセントへの税率引き上げが行われるのですが、過去の増税時に景気が悪化したことからその対策のために軽減税率が導入されます。

201910月から実施させる「軽減税率制度」とは

軽減税率とは、人々が生活するうえで最低限必要となる物品やサービスに対して課される消費税の税率を軽減する制度で、2019年に行われる10パーセントへの消費税率の引き上げ時に、一部の物品等については従前の8パーセントの税率を維持するというものです。消費税率を引き上げると人々が商品を購入する際に支払わなければならない金額が高くなることから、必然的に財布のひもが固くなることになり、それによって経済活動が著しく停滞することになります。

実際に、過去の増税時には景気停滞によって国の経済成長率に大きな悪影響が生じたり、税収が思ったように伸びなかったりしたことがあるため、そのような状況を防ぐために何らかの措置を講じる必要がありました。また、消費税は国民全員から平等に税金を徴収する制度であると言われる一方で、低所得者から税金を搾り取ることになるという批判も根強くあり、そのような批判にこたえるために生活必需品については何らかの軽減措置を設けることが求められていました。このような背景から、この軽減税率が導入されることになったという訳です。

次に、軽減税率の対象となる物品やサービスですが、すでに飲食料品と新聞が該当するということが決まっています。なお、ここで新聞とは、週に2回以上発行されるものであって。定期購読契約に基づいているものとされています。そのため、週刊誌や月刊誌はたとえ新聞と同じ形状をしていたとしても、軽減税率の対象には含まれません。また、飲食料品とは、食品表示法において定義されている食品であるとされており、それによると酒類は除かれることになります。含まれるものにはスーパーやコンビニエンスストアで販売されている飲料品や食料品のほか、テイクアウトや宅配で購入することができる料理や弁当があります。微妙なところでは、飲食料品用の容器やおまけつきの菓子類などがありますが、前者は明確に軽減対象になりますし、後者についても税抜きの金額が1万円以下であって食品の価格の占める割合が3分の2以上であるものであれば対象となります。

一方で、飲食料品であっても軽減税率の対象にならないものには、前述の酒類のほかに、外食やケータリングによって飲食するものがあります。これによると、コンビニエンスストアで弁当を購入した人が、テイクアウトして家や職場で食べる場合には軽減税率が適用されるのに対し、店舗内のイートインで食べる場合には対象外となります。あらかじめ購入者がどこで食べるかが明確になっている場合には問題ありませんが、例えばテイクアウトで食べると言って購入した人が、実際にはイートインで食べていたような場合にどのように対応するべきかという難題が生じうるため、政府は詳細なガイドラインを設けて様々な微妙なケースについての対応を説明しています。

事業者に大きな波紋!「軽減税率制度」導入による影響

この軽減税率の導入は、適用すべきかどうか判断が微妙なケースが頻発するほかにも事業者に様々な影響を与えることになります。特に大きな影響を受けるのが事業者における経理業務であり、商品を販売した売上高や経費として支払った費用について、8パーセントと10パーセントのどちらを適用すべきかを確認したり、領収書や請求書などに記載する税率を分けて記載したりする必要が出てきます。

例えば、レストランであれば店頭で提供する料理については本則の10パーセントの税率を適用することになるのに対し、宅配で届ける料理については軽減税率の8パーセントが適用されることになるため、領収書に異なる税率を表示できるようにしなければならなかったり、同じ料理の売り上げであっても別々に計上して消費税を計算するようにする必要が出てきます。また、コンビニエンスストアでは、同じ飲料であってもジュースを販売した場合には8パーセントが適用されるのに対し、アルコール飲料を販売した場合には10パーセントを適用しなければなりません。このように、飲食料品を扱う事業者においては業務に非常に大きな負荷がかかることになり、誤って税率を計算してしまう危険性も高くなることから、経理担当者にかかるプレッシャーはこれまで以上に大きなものになることでしょう。

また、軽減税率の導入に伴って、区分記載請求書等保存方式という制度が、さらに2023年には適格請求書等保存方式が導入されます。このうち、区分記載請求書等保存方式というのは、軽減税率の対象となる飲食料品などを取り扱い事業者が、税率ごとの区分を追加した請求書や領収書を発行したうえで、それに基づく区分経理を行うことを求めるという制度です。区分経理を行わない場合には、仕入税額控除が適用されず、税制面で不利な取り扱いを受けることになることから、負荷が大きくなるとはいえ対象となる事業者は対応せざるを得ません。

次に、適格請求書等保存方式は、インボイス方式とも呼ばれるもので、登録事業者が発行したインボイスと言われる請求書の保存を要件として、仕入税額控除を認める制度です。これについても適用するためには担当者の教育やシステム対応などが必要となることから、事業者には大きな負荷がかかることになります。

実施による利点と問題点?〜事業者が今後に備えるべき対策〜

以上で述べたように、軽減税率は消費税の増税による経済への悪影響を最低限に抑えるために導入されるものであり、その利点は何と言っても生活に必要な飲食料品を購入する場合には増税前と同じ税率が適用されるため、それらの商品について消費が抑制されるリスクを低減することができるということが挙げられるでしょう。そのため、特に対象となる商品を取り扱う事業者については、消費税率が引き上げられた後も、売り上げの落ち込みを覚悟しなくて済むかもしれません。

一方で問題点としては、8パーセントと10パーセントの両方に対応できるように、経理担当者を教育研修したり、必要な帳票を準備したりしなければならないということがあります。特に、近年では多くの事業者が経理や各種帳票をシステム化していることから、単純に手作業で対応すれば十分というわけではなく、高いコストをかけてシステムを改修したり、それまでの改修では対応しきれない場合には別のシステムにリプレースしなければならなくなるかもしれません。また、システムを変えることは一朝一夕にはできませんので、十分にスケジュールに余裕をもって対応にあたることが必要となります。以上のような対応は、経理の現場だけに任せていたのでは不十分であり、マネジメントレベルの問題として経営陣がしっかりと理解し、必要であれば社内横断的なプロジェクトチームを立ち上げるなどしてトップダウンで対応にあたることが求められることでしょう。

まとめ

軽減税率は消費税率の10パーセントへの引き上げによる経済への悪影響を最小限に抑えるために、特定の生活必需品については適用税率を増税前と同じく8パーセントに据え置く制度です。対象商品を取り扱う企業にとっては、売り上げの低下を抑えるという効果が期待される一方で、経理を中心に対応に負荷とコストがかかることから経営マターとしてトップダウンで対応にあたることが必要となります。