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「水道民営化」が可決!国民が知らない懸念すべき水道問題とは?

水道事業の民間化に道を開く水道法改正案が、2018年12月5日の参議院本会議で可決されました。安倍首相は国会の答弁で、今回の水道法改正案は「民営化」でなく、「コンセッション方式である」と強調しています。この「コンセッション方式」という、あまりなじみのない言葉がこの法案への理解をさまたげているかもしれません。このコラムでは「コンセッション方式」という用語の説明も含め、この法改正の問題点を説明します。

水道民営化法案が参議院で可決!

2018年12月4日に、「水道民営化法案」とも呼ばれる水道法改正案が、参議院厚生労働委員会で可決されました。続く5日に参議院本会議で討論のあとに採決され、反対72、自民・公明・日本維新の会などの賛成165で可決されました。そして12月6日の衆議院本会議で改正水道法が成立しました。今回の水道法の改正案には、水道事業経営の安定化を目指して、広範囲にわたる自治体の連携を進めることや、「コンセッション方式」の導入などが盛り込まれています。

この「コンセッション方式」とは、いったいどんな方式でしょうか?

コンセッション方式とは、国や自治体が上下水道などの公共施設の所有権を持ちつつ、その運営権を民間にゆだねる制度です。契約期間は通常で20年以上、事業者は国や自治体に権利の対価を払う一方で、施設の建設や運営、その維持管理に当たります。国や自治体は条例で利用料金の上限を決められ、また事業者の業務内容や経理を監視します。

なぜ「水道法改正案」が可決となったのか

安倍政権はこれまで、公共部門の民間への開放を成長戦略として掲げてきました。2013年に閣議決定された日本再興戦略において、民間開放を「大きな市場」「国際競争力強化の機会」を企業にもたらすもの、と位置づけています。まず手始めに2018年6月、自治体に公営事業の売却をうながすPFI法改正案を成立させました。この法律改定により、上下水道や空港などの運営権を民間企業に売却するコンセッション方式の導入が容易になりました。そして安倍政権は「10年間で21兆円の公営事業民営化」という目標を設定したのです。その目玉が「世界でもっとも安全で安い」と言われる日本の水道事業の民営化でした。

コンセッション方式がうまく機能すれば、民間運営による経済的利点、つまりコストの削減や雇用の創出が期待できます。例えば宮城県では、人口減少などで飲み水の扱い量が減り、水道事業の年間収益は今後20年で10億円減ることが予想されています。その一方で、水道管などの設備の更新費用は1960億円が必要とされています。

同県はこれまでも、浄水場のモニター監視や保守点検など、数多くの業務を民間に任せてきました。これらに加え、一部設備の管理や更新も今後20年間、民間に委託すればバラバラだった委託契約を一括にでき、合計で335億〜546億円のコスト削減効果が見込めるとしています。

浜松市でも、水道設備更新の必要性が高まりつつあるにもかかわらず、人口減少や節水機器の普及で収益減が確実な状況でした。そこで同市は2018年4月、下水道事業において全国初となるコンセッション方式を導入しました。運営権を、通称「水メジャー」と呼ばれるフランス水道サービス大手の、ヴェオリア社日本法人などに20年間25億円で売却しました。市の上下水道担当者は、実施計画や要求の水準を定めて、行政が最終責任者としてきちんと監視すれば、民営化はうまく機能すると話しています。

しかし、よく検討するなら、水道事業民営化にはいろいろ問題があることがわかります。例えば民間企業が水道事業を担うようになると、当然ながら役員報酬や株主配当、法人税が生じ、それはコストに反映されます。水道は地域独占の事業のため、企業の都合が優先されやすく、住民にとって適正な水道料金になるのか不安が残ります。

また水は国民の「命」に関わるもっとも大事なインフラです。それを民営化して本当に大丈夫なのかという疑問も生じます。営利を追求する民間企業に、災害時での緊急対応を含む、水への万全の備えができるのでしょうか。実際のところ、日本よりも民営化が先行する海外の国々ではトラブルが相次いでいます。

国民は知らない!外国で「水道民営化」で水道料金が高騰した事実

世界には民営水道事業を手掛ける巨大多国籍企業があり、「水メジャー」と呼ばれています。先に挙げたフランスのヴェオリア社もその1つです。フランスでは水道事業の民営化が進み、メディアの情報では3分の2の自治体が民営を導入しているそうです。しかし近年では「水道料金が高すぎる」と公営化に舵を切る動きがあります。

実例を挙げましょう。パリは水道事業を1984年に2つの「水メジャー」に委託しました。すると約30年間で、水道料金が5倍近くに跳ね上がったそうです。それが主な理由で、2010年に再び公営化しました。今では毎月の平均的な水道料金は4人家庭の場合で、30ユーロ(3900円)ほどに落ち着いているそうです。

また南フランスのニームでは、水道事業を「水メジャー」に約50年間、委託している間に設備の老朽化が放置され、漏水率が30%にもなっている様子が報じられました。

結局、料金を安くすることを理由に、2013年に公営に戻しました。パリ近郊のエソンヌと周辺自治体でも、住民から意見を聞くパブリックコメントをへて、2017年に公営事業へ転換しました。他方で、南西部のボルドーのように、上下水道事業のすべてを自治体が運営するのは負担が大きすぎるとの理由で、公営化を見送った自治体もあります。

アメリカのアトランタでも困った事態が起きています。1998年にアトランタ市は、それまで市営で行っていた水道事業の運営を、「水メジャー」スエズ社の子会社UWS社に委託しました。しかし、たった4年で契約を解除して、再び市の直営に戻したのです。民間にゆだねている間に起きたのは、配水管の損傷や泥水の噴出といった非常事態で、UWS社の対応も遅かったと言われています。

パリの水道事業を担う公営企業の話では、水道事業は水源の管理や配水管の整備などで100年単位の計画が必要にもかかわらず、設備更新などへの投資は後回しになりがちだと言います。その理由はもちろん、民間企業では短期的な利益が求められるためです。また何十年にもわたって運営を民間に任せっぱなしにすると、行政の制御がきかなくなる傾向があり、その企業内で不透明さやムダが生まれやすくなるとも分析しています。

世界中に目を向けると、悲劇も起きています。南アフリカでは水道事業の民営化に際し、すべてのコストを水道料金に反映する「フル・コスト・リカバリー方式」がとられたせいで、貧困層の住民1000万人が水道を止められました。そして生活するための水を、汚染された川から汲まなければならない家庭が続出した結果、コレラが蔓延。多くの方が亡くなりました。

南米のボリビアでも水道民営化によって悲劇が起きました。水道料金の値上げでここでも水道を止められる人が続出しました。それが原因で、住民による「ボリビア水戦争」「コチャバンバ水紛争」と言われる激しい反対運動が起きました。2000年には政府がデモ隊を武力で鎮圧しようとして、死者が出る事態にまで発展しました。その抗議運動は各地に広がり、最終的に政府は抗議を受け入れて再び公営化することになりました。

まとめ

上記の国々以外にもドイツ、スペイン、アルゼンチン、ハンガリー、ガーナ、マレーシアなどで水道事業の民営化が試みられましたが、うまく機能していないケースが多いようです。しかしながら安倍政権による今回の水道法改正で、これらの問題点への対策が十分に練られたとは言えないでしょう。また、水源地の環境保全など、地球環境への配慮がおざなりになるのではないかとの疑問も残っています。いずれにしても、世界でもっとも安全で安いと言われる日本の水道をこのまま使い続けたいものです。