優秀な中小企業が、後継者不足で歴史に幕を閉じたというニュースが増えてきています。事業は順調にもかかわらず、経営者が高齢になったり、後継者が見つからなかったりと問題を抱える中小企業の増加は社会の損失です。次世代に会社経営を伝えることは、社会全体の課題でもあります。事業承継の準備は、早めにおこなうことが重要です。手遅れになる前に、中小企業が事業承継で気を付けておきたいことについて紹介します。
社長が高齢なのに後継者がいない!深刻な人材不足問題
大企業では、代表取締役が交代しても企業全体の経営方針が変わるとは限りません。高齢な代表取締役が引退しても、後を引き継ぐ後任候補は何名も控えていることが多いでしょう。その点、中小企業では会社全体の経営が経営者にゆだねられているケースが目立ちます。社長が一代で起こした会社で圧倒的な存在感を持っていたり、ワンマン経営で社長しか知らない重要機密があったりすると、社長が倒れたときには会社の経営が成り立たなくなる恐れがあるのです。そこで後継者問題が浮上するのですが、スムーズに後継者が見つからないと手遅れになりかねません。
すでに社長が高齢なのに、後継者が決まっていないという中小企業は少なくありません。中小企業にとって、人材不足は深刻な問題となっています。中小企業によっては、社員がほんの数名のケースもあるでしょう。社長をサポートして大きな役割を務めている人材でも、そのまま働き続けることと社長の後継者になることでは大きな違いになります。見込みのある人材がいても、後継者になる志望がなければ候補がいないのと同然です。もちろん、後継者候補が全くいないケースもあるでしょう。
後継者をどうしようかと悩んでいるうちに、経営者の高齢化はますます進んでしまいます。高齢になれば、若い頃と同じエネルギーで経営手腕を発揮しにくくもなります。そうこうするうちに社長が現場に出られなくなれば、後継者候補がいても十分な事業承継が困難です。事業承継ができなければ、廃業せざるを得ません。廃業とは、企業の持つ資産を全て手離し、負債を支払って清算することです。つまり、会社の存在が消えることで、それまで企業として努力してきたことなども一切失われてしまいます。
どんなに優れた技術や特許を持っていても、多くの人に愛され求められてきた製品などを生んできても、廃業してしまえば全てが消え去ります。ブランド価値も失われ、日本の産業にも影響を与えるでしょう。実際、中小企業の廃業数は増加傾向にあるというのが帝国データバンクのリサーチ結果です。しかも倒産件数は増えていないため、事業が継続可能にもかかわらず廃業に追い込まれる中小企業が多いことがわかります。明らかに高齢社会になっている日本で、中小企業の経営者が代替わりしなければ、高齢経営になる一方です。後継者が見つからず、自分が高齢のために廃業しなければならないのは、経営者にとってもつらいことでしょう。
事業承継をしておけば、経営者が交代しても事業そのものは揺らぐことなく会社も存在し続けます。高齢経営者も安心して引退できるでしょうし、これまで実績を上げてきた中小企業の経営が継続すれば日本社会が経済的な価値を失わずに済むのです。
後継者を育てるには時間がかかる!早めの準備が必要
仮に後継者の候補がいても、これまで手腕を振るってきた経営者と同等の力をすぐに発揮できるとは限りません。後継者を育成するには、時間がかかります。優秀な人材が経営者候補として上がってきても、必要なのは社長の代わりになることだけではありません。むしろ重要になるのは、事業をいかに引き継ぐかです。経営者が交代したことで事業に大きな異変が起こり、継続不能になっては元も子もないでしょう。まずは事業を順調なままに引き継ぐことを優先し、次に社長としての存在価値を高めていく必要があります。
後継者候補には、下地がある人もいれば、事業に関して何のノウハウも持っていない人もいます。下地がある候補者でも、そのレベルは人によってまちまちでしょう。経営者との関係も、親族や会社の役員、従業員など様々です。こうした後継者候補に事業内容を引き継ぐことをはじめ、取引先や顧客などに事業承継を予定していることや後継者候補の顔を認知してもらう必要もあります。企業の借り入れに個人保証をしている場合は、後継者にも負債の引継ぎがあることを受け入れてもらわなければなりません。敢えて親族に引き継ぎをしたくないという経営者もいますし、従業員に適任者が見つからなければ外部から経営者候補を探してくることもあり得ます。そうなれば、従業員が外部からの経営者候補を受け入れてくれるかどうかの問題も発生するのです。
事業承継しようと候補者を育成している間に、経営者が倒れてしまうこともあります。経営者への絶大なる信頼によって経営が成り立っていた場合、急に後継者候補が現れても周囲が納得しない可能性があります。従業員が違和感を覚える場合もあれば、家族経営のような中小企業であれば家族間で異論が噴出するかもしれません。金融機関から信用を得られない可能性もあり、さらには取引先から不満が出る恐れもあります。こうした問題の可能性を少なくしていくためには、経営者が手取り足取り指導し、周囲に納得してもらう努力が必要です。その期間は企業によっても差があるでしょうが、なるべく育成期間に余裕をもっておいたほうが、事業承継が上手くいくでしょう。後継者候補の育成期間に余裕をもつことで、様々な問題が発生したときの対応力も備わります。
後継者の育成が間に合わない時にはどうすればいい?
後継者の育成が間に合わない場合、主に3つの対策があります。
1つは、廃業です。廃業すべきでないからこそ後継者問題に悩んだのだとしても、十分に後継者を育成できずに事業承継をすれば、事業が破綻してしまう恐れがあります。経営者にとっては、子どものように育ててきた会社を終わりにしなければならないのはつらいことでしょう。かといって、不安のある後継者が引き継いだ事業が破綻してしまえば、従業員を露頭に迷わせることになります。後継者にとっても、後継ぎにならなければよかったと長い後悔に苦しむかもしれません。そんなことになるよりは、廃業したほうがいいだろうと決断する高齢経営者もいます。
2つめの方法は、上場です。会社を上場すれば、経営者自身が負債の個人保証をする必要がなくなり、個人資産の提供も要りません。外部から優秀な人材を募り、事業をスムーズに引き継げる後継者候補を決めるのも容易になるでしょう。とはいえ、上場など現実的でない中小企業もあります。証券取引所の審査は厳しく、仮に審査が通っても上場すれば会社はより広く株主の支配下に置かれます。メリットもありながら、会社の大きな転換点となる無視できないデメリットも考えられるのです。ただ、事業承継の一つの方法としては可能性があります。
企業の吸収や合併をするM&Aが、3つめの方法です。他の会社と統合したり、他の会社に吸収合併される、あるいはすることで事業承継が可能になります。個別の資産を譲渡する方法としない方法とがあり、M&Aといっても事業譲渡を中心に進めることも可能です。余力のある中小企業なら見込みのある別会社を吸収することもできますが、吸収される側になる中小企業も少なくありません。もしも業績に不備があれば、会社の買い手がすぐに見つからないこともあるでしょう。従業員は引き取ってもらえない可能性もありますし、従業員の雇用条件が不利になったり事業内容が大きく変更されることもあります。スムーズに事業承継できる一つの方法ではあるものの、リスクもあることは理解しておきましょう。
【まとめ】事業承継の準備は後回しにしない!
中小企業の事業承継には様々なケースがあり、ケースに合わせて最適な方法を選ぶ必要があります。また、いずれの方法をとるにしても、準備期間に余裕をもっておくことが重要です。土壇場になって問題が噴出して慌てないためには、慎重な行動と共に事業承継に早めに着手することをおすすめします。順調に事業を引き継げるよう、準備していきましょう。