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事業継承のときの税金対策 入念な事前準備で節税

日本の企業の中で、大きな割合を占めるのが中小企業です。しかし現在、中小企業の経営者は高齢化が進んでおり、事業承継について考えることが急務となっています。事業承継を成功させるためには、どうすれば良いのでしょうか。そのための秘訣の1つが、節税対策です。こちらでは、事業承継によってかかる税金や、その節税対策について解説します。

事業継承のときにどのような税金がかかる?


事業承継で引き継ぐものは、会社の人的資源だけではありません。現金や株式・債権などの財産も承継するものに含まれています。当然ながら、引き継いだ財産に対しては税金がかかりますが、どのような種類の税金がかかることになるのかは事業承継の方法によって異なります。主な事業承継の方法は次の3つです。

1つ目は相続による承継です。会社を経営していた親が死亡したのちに、息子が社長として後を継ぐというようなケースです。

2つ目は、生前贈与による事業承継です。社長がまだ存命のうちに後継者を選び、会社をその後継者に贈与するという方法です。

3つ目は、会社を他の会社などに売却することによって事業を承継させる方法です。このうち、相続による事業承継の場合には、後継者である被相続人に対して相続税がかかります。生前贈与だと、贈与税が後継者にかけられます。そして、売買による事業承継を行うと、会社を購入して経営者となった者に所得税が課せられることになります。その他3つの方法に共通してかかる税金として、消費税や法人税があります。

事業継承にかかる相続税・贈与税の免除が受けられる「事業承継税制」


相続税と贈与税にかけられる税率は、最高で55%にものぼります。相続の場合、相続財産の額が6億円を超えると税率が55%になってしまいます。贈与税では、3,000万円を超えた時に税率が55%となります。事業規模がある程度大きくなると、受け継ぐ財産も多額となりますので、55%の税率が課せられる可能性もゼロではないでしょう。そのため、事業承継による税金について対策をとる際には、主に相続税・贈与税の2つで行うことが非常に重要なのです。

相続税・贈与税対策のうちの1つが、「事業承継税制」です。事業承継税制というのは、後継者に承継させようとする財産が株式の場合に利用できる制度です。いくつかの条件を満たすことで、贈与税や相続税の免除・猶予措置をとってもらうことができます。条件は5つあります。

1つ目の条件は、会社の状態に関するものです。上場会社・中小企業者に該当する会社・風俗営業会社の、いずれにも該当しないことが定められています。他に、資産管理会社ではないことや、総収入や従業員数がゼロではないことも条件とされています。

2つ目は、後継者についての条件です。20歳以上で会社の代表権があることや、役員など役職への就任から3年以上が経過していて、総議決権数の半数以上を保有していることが定められています。

3つ目は、現在の経営者に関する規定です。会社の代表権があったが贈与時には既に代表権を失っていること、贈与の直前まで総議決権数の半数以上を保有していたことの2つが条件となっています。

4つ目に、事業承継税制について都道府県知事から認定を受けていることが必要です。

そして5つ目の条件は、本来であれば納税するはずの贈与税額と利子額に見合うだけの担保を、税務署に納めることとなっています。

これらの条件を満たすことで、初めて事業承継税制の利用が可能になります。実際に制度を利用する際には、贈与を受けた翌年の1月15日までに申請を行うことが必要です。そして、2月1日から3月15日までの確定申告の時期に、税務署に贈与税の申告を行います。事業承継税制の最も大きなメリットは、納税額を抑えられるということです。

しかし、金銭的な負担を減らすだけではなく、他にも利点があります。自社株式の価格が上昇傾向にある場合、納税負担を考えると事業承継を躊躇することになりがちです。そのような時にも事業承継税制を利用することで、後継者は安心して事業承継をすることが可能となるのです。また、納税にまわす分の資金を、事業承継に必要な後継者の教育などに使うことができます。事業承継税制は、平成30年度の税制改正によって見直しがされ、従来よりも制度利用がしやすくなっています。これは10年間に限った特例措置ですので、事業承継を考えている人は早めに検討すると良いでしょう。

事業継承のときにできる節税方法


事業承継税制の他にも、節税対策はできます。

まず相続税の場合には、「小規模宅地等の特例」を利用することです。この制度では、事業に使用する宅地や居住地用の宅地について、減税措置を受けることができます。該当する小規模宅地の種類や、減税できる部分の面積には制限がありますが、節税効果は大きいです。最も低い減額割合でも50%は減税でき、高くなると80%の減税が可能です。但し、平成30年度の税制改正によって、これまで減額対象となっていた「相続開始前3年以内に貸付事業の用に供された宅地等」は適用外となったので、注意が必要です。

他に、相続による事業承継の場合には、配偶者控除も節税対策となります。配偶者が財産を相続する際に、その財産額が1億6,000万円までであれば相続税がかからないのです。配偶者控除はその時点では有効な節税対策となりますが、将来的に配偶者が死亡した場合にはその子に相続税がかかる可能性がありますので、留意しましょう。一方で、贈与税の場合に利用できる節税対策としては、暦年課税制度や相続時精算課税制度の利用が考えられます。

暦年課税制度というのは、生前贈与額が年間で110万円までであれば、税金がかからないというものです。その額を超えた部分に関しては通常の贈与税率に従って税金が課せられます。この制度で大きな節税効果を生み出すためには、計画的に生前贈与を行っていくことがポイントとなります。相続時精算課税制度は、贈与財産が2,500万円以下の場合に贈与税が免除される制度です。但し、贈与者が死亡した時には、その贈与財産も相続財産の中に含めて相続税の計算を行います。このように相続の時に税金を清算する形となっていることから、「相続時精算課税制度」と言われているのです。

相続時精算課税制度では、将来の相続財産の中に贈与財産も含めなければならないのですが、相続税の計算には贈与の時点での価格を用います。そのため、将来的に値上がりが期待されるような財産の場合にこの制度を利用すると、上手く節税ができます。ちなみに、暦年課税制度と相続時精算課税制度は併用することができません。さらに、一旦どちらかの制度を選ぶと、その後にもう一方の制度の方に変更することができませんので、充分考慮した上で利用することが大切です。相続税と贈与税、どちらに対しても有効な節税対策もあります。それは、株価を引き下げることです。

事業承継する財産の種類として、株式は大きな割合を占めます。さらに株式は、タイミングやちょっとしたきっかけで高額になりやすいものでもあります。もし事業承継した時に株式が値上がり傾向にあると、それだけで納税負担は大きくなりますから、株価の引き下げは節税のために重要なのです。株価を引き下げるというと難しく思うかもしれません。しかし例えば、利益を減らすことで株価の引き下げは期待できます。具体的な方法として、保険に加入すれば保険料は費用として扱われますから、その分利益を減らせるでしょう。

また、退職金も費用ですから、支払うことで利益を減らせます。不動産の購入でも株価の引き下げは可能です。不動産の評価額は、売買価格の7,8割となっているため、現金でそのまま持っている時よりも財産の評価を減らすことができるからです。

【まとめ】スムーズな事業承継において節税対策は必須


事業承継に際しては、様々な税金がかかります。中でも注意しなければならないのが、相続税と贈与税です。この2つは最高で55%もの税率が課せられますので、節税対策は必須です。節税の方法としては「事業承継税制」というものがあり、かなり大きな節税効果が期待できます。他にも、相続税・贈与税ともに節税できる方法は色々とありますので、計画的に対策を講じてスムーズに事業承継できるようにしましょう。