新たな資金調達の手段としてCVCを活用するベンチャー企業が増えつつあります。CVCは大規模な資金調達が難しいベンチャー企業と新市場開拓に頭を抱える大企業、それぞれの悩みを解決し双方のビジネスを加速させるきっかけともなっています。今回は、CVCのことやCVC急増で大きく変化する資金調達、今後の資金調達環境などについて紹介します。
未上場でも10億円以上調達でき、できたばかりの会社でも数億円の価値がつく環境
コーポレートベンチャーキャピタルの略称として知られるCVCは、事業会社がベンチャー企業に対して投資する活動のことをいいます。投資を行う事業会社は一般的に大企業と呼ばれる会社です。大企業の多くは顧客のニーズが多様化する近年、新たな製品の開発や新市場の開拓など全てを自社内で行うのが困難であることに頭を抱えています。そこで独特のアイディアや技術を持つベンチャー企業に投資し、新製品開発や製品開発期間の短縮、新市場開拓などに繋げようという動きが増加しつつあります。CVCはベンチャー企業と大企業、双方にとってビジネス拡大のチャンスが期待できるというのが大きなメリットです。
一般的なCVCの形態として、まず大企業がベンチャー企業への投資を目的としたCVCファンドを設立します。事業シナジーが見込めそうな企業を見つけたら、設立したCVCファンドを通して投資を行います。その結果自社で研究・開発を一からスタートするよりも、低リスク低コストでの新規事業立ち上げが期待できます。
CVCはこうしたオープンイノベーションの手段として活用されているほか、インターフェースとしても機能する一面も持っています。大企業とベンチャー企業間の情報流通がスムーズに行えれば、互いの技術やアイディアを活かしビジネスを加速させることができます。ですが双方の情報流通が活発であるとは言い難く、大企業は自社の提供価値を的確に伝えられていないことがほとんどです。CVCによって互いの情報流通を活発にし、素早く新規事業開発を進められる可能性があります。
CVCの発達などによって、未上場でも10億円以上資金調達できる会社が増えつつあります。未上場で企業価値が10億ドル、日本円で約1,000億円以上ある企業をユニコーン企業といい、2018年時点で世界にあるユニコーン企業数は約260社です。そのほとんどがアメリカにある企業ですが、日本にも1社存在しています。企業価値が1,000億円まで行かなくとも、100億円を超える国内企業は2017年時点で22社以上あるといわれています。2018年に上場した株式会社メルカリが、未上場の2017年に企業価値が1,000億円を超えた例として代表的です。メルカリは2013年に設立された会社で、設立からわずか数年で企業価値が大幅に上昇しています。できたばかりの会社でも、CVCなど資金調達環境の変化によって、10億円規模の資金調達や数億円の企業価値がつくことも期待できます。
CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)が急増、資金の出し手が多様化
CVCが活発化しはじめたのは2011年ごろで、それから数年でCVCファンドを設立する企業は増加しています。CVCが活発化しはじめたころ、ファンドを設立した業種で多かったのは製薬や化粧品などの製造業と商社やIT企業などのサービス業です。製造業やサービス業にとって、新製品開発や新市場開拓を低コストで目指せるCVCは企業のニーズに合致しており、大きなメリットをもたらす可能性があります。代表的な例として2012年にはKDDI株式会社がベンチャー企業を広く支援するKDDIオープンイノベーションファンドを設立、ヤフー株式会社がYJキャピタル株式会社を設立しています。はじめのうちは製造業やサービス業の活用が多かったCVCですが、段々とほかの業種でも活用しようという動きが増えてきました。
ベンチャー企業の投資に積極的ではないといわれていたテレビ局や鉄道会社などでも、CVCを活用する企業があります。テレビ局の代表的な例が、フジテレビで有名な株式会社フジ・メディア・ホールディングスが2013年に設立したフジ・スタートアップ・ベンチャーズです。急速な成長が見込まれていたソーシャル系ウェブサービス運営やスマホアプリ開発など、ネットやモバイル分野のビジネスでテレビ局もCVCを活用しています。鉄道会社の例では、JR西日本による株式会社JR西日本イノベーションズの設立が代表的です。2016年に設立されたJR西日本イノベーションズは、主に鉄道の持続的な運営や事業創造を目的としています。
テレビ局などと同じように、ベンチャー企業の投資と縁遠かった新聞社や不動産会社がCVCファンドを設立した例もあります。朝日新聞社は2017年に、朝日メディアラボベンチャーズ株式会社を立ち上げています。朝日メディアラボベンチャーズは、新聞社やテレビ局が出資するメディアグループファンドです。インターネットやメディア関連の企業に投資しているほか、朝日グループとのシナジーがない企業も支援するなど幅広く投資しています。不動産会社がCVCを活用している例としては、2015年に三井不動産がベンチャー共創事業部である31VENTURESを設立したことが代表的です。三井不動産グループの事業とシナジーが見込めるベンチャー企業を中心に、コミュニティと支援、資金の3つを核に出資しています。
今後の資金調達の環境はどうなるのか?
資金調達の多様化が進み、ベンチャー企業の投資に縁がなかった企業にもCVCを活用する動きが広まっています。それによって資金の出し手が増え、ベンチャー企業の資金調達方法も選択肢が増えつつあります。順調に見えるCVCの広まりですが、事業シナジーに関することなど解決すべき課題も残っています。CVCファンドの設立直後は順調に運用していると感じる企業が多いです。それが1年以上経つと順調だと感じる企業が少しずつ減り、3年以上経過するとその数は半数ほどに減ってしまうといわれています。事業シナジーがあまり実現できていないというのが、順調でないと感じる理由の1つです。また、適切な出資なのかなどノウハウ不足の問題や投資先を見つけられないといった課題をあげる企業もあります。
目的を明確にし、しっかりとした体制でCVCファンドを運用することが事業シナジー創出のポイントです。また、資金調達をするベンチャー企業側も、CVCを利用するうえで事業シナジーがあるのかどうかなどを考慮することが大切です。資金調達で会社の規模が大きくなることで得られるメリットも大きくなりますが、意思統一が難しくなるといった一面もあります。また、出資する企業の意向を無視できなくなり、会社の方向性が大きく転換してしまう可能性もあります。自社に合った方法を選び、成長段階に合わせて行うことが失敗しない資金調達の重要なポイントです。
今後も資金調達の方法は多様化し、環境も変化していくといわれています。アメリカでは資金調達の方法が多種多様にあり、日本ではまだまだ浸透していない方法も多くあります。CVCのようにベンチャー企業の新たな資金調達方法が増えれば、スタートアップ資金が億単位になるケースも増える可能性が高いです。できたばかりの会社に数億円の価値がつく、というケースもさらに増える可能性があります。資金調達方法の選択肢が増えるなかでも、自社の成長に適した手段を見極めていくことが大切です。
まとめ
CVCファンドを設立する大企業が増えたことによって、ベンチャー企業の資金調達環境も変化しつつあります。資金調達方法が少なくスタートアップ資金に悩んでいたベンチャー企業も、CVCを活用することで億単位の資金を得られる可能性があります。今後もCVCのような資金調達方法が増えれば、ビジネスを加速させるチャンスもさらに増えるかもしれません。