最近「ヘルステック」という言葉をよく耳にしませんか?このヘルステックとは一体どのようなものなのでしょうか。ここではヘルステックの意味や、どのように役立つのかについて解説していきます。
ヘルステックとは
ヘルステックという言葉は「ヘルス(health)」と「テクノロジー(technology)」という2つの単語を掛け合わせた造語です。ヘルステックとは近年注目を浴びている、医療業界における新しいコンセプトのことです。
ヘルステックに明確な定義はありません。しかし、最新のICT(information and communication technology・情報通信技術)を活用した新しい医療サービスや、これらの医療サービスを作り出すことと考えるとイメージしやすいと思います。
具体的に使用する技術としては、クラウドコンピューティング、スマートフォンやタブレットなどの最新のモバイル端末、AI(人工知能)、モノのインターネット、ウエアラブルデバイスなどに活用されます。このような最新技術で創造される新しい医療サービスを、総称して「ヘルステック」と呼びます。
医療業界において、今まで患者の情報は紙媒体又は電子カルテとして、各医療機関で保存されることが一般的でした。しかし、このヘルステックの概念により、「電子カルテシステム」を構築し、患者自身や他の医療機関ともカルテを共有することが可能になっています。
このように、カルテの情報をビッグデータ化し、どの医療機関からも患者の情報にアクセスすることができるようになることも、ヘルステックがもたらす医療革新の一種であるといえます。このような技術が発展することで、患者が今までとは別の医療機関を受診した際に、一から既往症や現在飲んでいる薬の説明などを医師に説明する必要がなくなることも、カルテ情報の共有のメリットの一つです。
また、ヘルステックは医療業界のみではなく、介護業界からも注目されています。介護現場での人不足は深刻な問題であり、老々介護も問題となっています。このような問題を抱える介護業界において今注目されているヘルステックの中に、「介護用ロボット」の存在があります。
この介護用ロボットは主に3つの種類に分類され、それぞれ「介護支援型」、「自立支援型」、「コミュニケーション・セキュリティー型」と呼ばれています。これらのロボットの導入により、介護現場の人手不足による労働環境の悪さが改善されると期待されています。
このように、ヘルステックとは、医療業界や介護業界の今までの在り方を大きく改善し、QOLを高めることができる新しい概念であるといえます。
身体のデータに基づいて、治療から予防に
超高齢化社会を迎えつつある現代の日本では、国民皆保険制度による医療費の国費負担が財政を圧迫しています。そこで、この医療費をどのように削減するかが今後の課題となっています。具体的には、ヘルステックを医療や介護の現場に導入することで、病気の「治療」から「予防」へと医療の目的をシフトしていくことが可能になるのです。
例えばCT(コンピューター断層撮影装置)やMRI(磁気共鳴画像装置)など、医療機器が進化を遂げるにつれて、医師は膨大な医療データの解析を行い診断を下す必要が出てきます。しかし、現在ではこれらの画像の解析作業にAI(人工知能)を活用し、医療画像による診断を効率化することに成功しています。これもヘルステックが医療現場にもたらした大きな革命であるといえます。
また、健康診断や現在行っている病気の治療内容などのデータを時系列に沿って分析し、その患者が将来発症する確率が高い病気の予測や、発症した場合の病気の進行度合いなどの予測も行うことが可能になります。
このような予測ができることで、その病気になりにくい生活習慣に改めたり、検査の頻度を高めることで発症を予防したり、発症しても軽度のうちに治療することができます。これらを行うことにより、国民の健康増進につながるため、結果的に医療費を削減することが可能になります。
また、ウエアラブルデバイスを用いることで、利用者の歩いた歩数や消費カロリー、体温や心拍数などの情報を、クラウドを通じてパソコンやスマートフォンに記録することができるアプリが数多く存在しています。
皆さんがお持ちのスマートフォンにも、簡単にダウンロードできるアプリもあります。歩数や消費カロリー、体重などのデータを記録するものが最もベーシックなものであるといえます。このような情報を取得し、記録することで利用者自身の生活習慣の改善につながり、病気になりにくい健康な体作りに役立ちます。
さらに、体温や心拍数のデータを毎日記録し、比較することで、ちょっとした体の異変にもすぐに対応することができます。それが病気によるものであれば、症状が軽度のうちに治療を行うことが可能になります。
このような取り組みは、個人や家族だけでなく企業でも取り入れられつつあり、従業員の健康管理に役立てられています。さらに、このようなヘルステックを企業に導入することによって、従業員のメンタルヘルスの把握に利用するなど幅広い活用が期待されています。
ヘルステックの市場拡大と有名企業
ヘルステックの市場規模は年々拡大の一途を遂げています。以前は製薬会社や医療機器メーカーなど、ヘルステックにかかわる企業は限られていましたが、現在ではベンチャー・スタートアップ企業など、異業種企業が続々と参入しています。
このように新規にヘルステック業界に参入してきた企業が、新たな価値を持つサービスを開発し、提供を始めています。そのようなサービスの開発は今後も発展が予想され、将来的には「機械的ではない人工臓器」や、「遺伝子治療」といった新しい治療方法の開発が期待されています。
治療に関しては、テレビ電話を利用してオンラインで医療相談を行うことができる「fast call」を展開しているMediplat、通院の負担を軽くし、継続的に治療を行うことを支援する通院システム「CLINICS」を展開するメドレーといった企業があります。
また、医療インフラの分野では、画像診断を必要としている医療機関と遠隔診断を行いたい専門家を結ぶ「遠隔診断のインフラ環境」を整える医知悟(いちご)という合同会社も存在します。そのほか、日常的なヘルスケア関連のヘルステック参入企業として、ドコモ・ヘルスケア、FINC、iCAREなどの企業があります。
まとめ
ここまで、ヘルステックとは何かということ、ヘルステックにより、医療に求められる内容の変化していること、ヘルステックが市場規模を拡大している理由と、その主な参入企業について解説してきました。
ヘルステックとは、今までの医療行為や医療技術と、IT技術を融合させたものであり、病気の早期発見や正確な診断、高い技術による治療を可能にする新しい概念であることがお判りいただけたと思います。 超高齢化時代に人々が求めることは、「健康で長生きすること」です。ヘルステックの概念はその人々の願いを実現するために大いに役立っています。まさに今、医療業界はヘルステックにより、病気の治療から予防へと求められるニーズが変化してきているのです。予防の観点から健康寿命を延ばしていくことで、より多くの人々のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の向上にもつながってくるのではない