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カタールがOPEC脱退を決めた理由〜今後の石油市場に与える影響は~

世界的にオイルマネーは混沌とした時期に入っていると言われています。原油価格高騰の流れはしばらくの間続くとみられていて、市場に与える影響は大きいでしょう。そんな中、OPEC(石油輸出国機構)から脱退を表明した国があります。世界中の原油価格に多大な影響を与えると言われているOPECからアラブの産油国が脱退するのは初めてであり、今後市場に与える影響がどういったものになるのか、その動向が注目されています。

20191月カタールはOPEC(石油輸出国機構)脱退を表明


カタールが石油輸出国機構(OPEC)から2019年1月に脱退すると、2018年12月3日に発表したしたことは関係者に大きな衝撃を与えました。カタールはペルシャ湾岸にある小さな国で、世界最大の液化天然ガス(LNG)輸出国ではありますが、産油国としてはOPEC第11位という決して高い位置にいるわけではありません、1日の生産量は約60万バレルとあまり多くなく、OPECトップであるサウジアラビアの6分の1ほどしか産出してはいないのです。

それでも世界に大きな衝撃を与えた理由は、OPECからアラブの産油国が脱退するというのは前代未聞の出来事であったからです。かつて原油は、アメリカをはじめとした石油メジャーと呼ばれる企業に実質的に支配されていて、産出国は大きな利益を上げることが出来ませんでした。しかし石油産出国の利益を守ることを目的として1960年にOPECが設立されると、市場は大きく変化することとなります。1973年と1978年にオイルショックと呼ばれる、経済の大混乱を引き起こさせるほどの影響力をOPECは持ったのです。

1980年代にはいると、OPECの非加盟国である国でも産油量が増え始めたり、石油に代わる代替エネルギーへの転換が進んだりすることで、次第にOPEC一強と呼ばれる原油価格の支配が終わりを迎えることとなります。しかしOPECバスケット価格と呼ばれる原油価格の重要な指標は、その後も強い影響を与え続けていました。経済情勢や湾岸戦争、そして原油の枯渇などから原油価格は高騰と下落を繰り返していましたが、アメリカでシェールガスの開発が進んだことはOPECの影響力に深刻な影響を与えることとなったのです。

シェールガスが埋蔵されているシェール層には、シェールガス以外にもシェールオイルと呼ばれる石油が含まれています。技術的にシェールガスの掘削の方が、コストがかからなかったため、先にシェールガスの採掘が進んだのですが、技術が進むにつれてシェールオイルも採掘も行われるようになりました。シェールガスよりもシェールオイルの方がコストは割高ではありますが、シェールオイルは高値で売買されるため次第に生産量が増えていくこととなったのです。それにより、長きに渡り石油産出国第1位の地位を守ってきたサウジアラビアが、アメリカに1位の座を奪われることになりました。OPECで絶大な求心力を誇っていたサウジアラビアの力が減速したことは、カタールのOPEC脱退と深い関係があると言われているのです。

カタールがOEPCを脱退する真の理由


タールは産油国ではありますが、それほど多く原油を産出しているわけではありません。しかし一方でLNG(液化天然ガス)の輸出量は世界最大です。OPECに長くとどまっていてもそれほどメリットが大きいとは言えず、OPECを脱退して市場での価値が高いLNGの輸出量を増やしていった方が、国策として利益が大きいのではないかと判断したと言われています。

しかし本当の理由はそれだけではないかもしれません。カタールとサウジアラビアは、政治的にも対立してきた背景があります。同じOPECに属していながら、イラン政策をめぐって政治的に対立し、2017年6月には両国が断交する事態にまで陥っていたのです。両国がここまでこじれる原因となったのは、サウジアラビア政治の実権が国王から皇太子に移ったことにあると言われています。実権が移った後、サウジアラビアの外交政策は強硬姿勢が強まっていっており、カタールはアラブ諸国の中での孤立を深めていくこととなりました。カタールのOPEC脱退は、こうした政治的背景も含んでいるものなのです。

サウジアラビアとイランの間には、長い対立の歴史があります。もともとイスラム教の宗派対立(スンナ派とシーア派)があり、サウジアラビアは多数を占めるスンナ派、対するイランは少数派であるシーア派を支持してきました。直接の軍事衝突は行われてきませんでしたが、周辺諸国の紛争の際に対立する国の背後にそれぞれついた構図から、代理戦争とまで言われるほどサウジアラビアとイランの関係は悪化していたのです。

カタールは国民の大多数がイスラム教スンナ派であり、サウジアラビアと同じ宗教国家と言えます。しかし多くの中東諸国とは異なる性質を持った国としても有名です。もともと中東諸国は王族や独裁者による政治が行われることが多かったのですが、カタールは王族国家でありながら、アメリカや欧米諸国とも交流があり、ほかの中東諸国とは異なる政治を行ってきました。国内には米軍における中東最大の空軍基地も提供している実態もあります。中東諸国は、反米を打ち出している国が多い中、カタールは独自の路線で外交を進めていったのです。

このような独自路線を進むカタールが、中東諸国を中心としたOPECから脱退することは、カタールにとって利益があるように考えられますが、実はサウジアラビアが仕向けている思惑だとみる動きもあります。アメリカがシェールオイルによって石油産出国1位となったことにより、石油市場におけるサウジアラビアの影響力は弱まりつつあるとみられています。そこに危機感を抱いたサウジアラビアは、長い間敵対していたとみられるロシアと急接近していると言われているのです。

ロシアは中東でもイランの支援に回ることが多く、サウジアラビアとは敵対する位置にあると言われてきました。しかし石油市場での影響力を増すアメリカに対抗するために、ロシアと協力する方向へ舵を変更したのです。ロシアもかつてのような力を失いつつあります。そこで再び世界的影響力を増すために、ロシアでのLNG生産支援を受けるためにサウジアラビアからの出資交渉に入ったとみられているのです。サウジアラビアにとって有益な国だけをOPECに残す動きがあるのではないかと指摘されることもあり、カタールのOPEC脱退と世界経済の関係性はしばらく目を離すことが出来ないものだと言われています。

脱退によるOPECと今後の石油市場にどう影響するか?


小さな国であっても、カタールは中東地域にある石油産出国です。サウジアラビアによる強い求心力によりまとまっていた中東諸国は、カタールのOPEC脱退によって難しい局面を迎えると言われています。LNG輸出大国であるカタールが、LNGの輸出を強化することによって、原油価格は下落が予想されます。石油を輸入する先進国にとっては原油価格の下落は経済においてメリットのように感じられますが、実はそう簡単なことではないのです。原油価格の下落は、世界におけるOPECの影響力低下を意味しており、ただでさえ難しい中東情勢のバランスが大きく崩れることに繋がりかねないからです。

原油価格の下落によって、先進国の経済状況が一時的に上向きになったとしても、中東情勢が悪化すれば原油そのものを産出したり、輸入することが困難になり、再び原油価格の高騰が起こり、オイルショックを引き起こす可能性も含んでいます。カタールという小国のOPEC脱退という現実は、世界経済の今後を左右するきっかけになるかもしれないのです。

まとめ


中東諸国にあるカタールが、2019年にOPEC脱退を表明しました。このことは、サウジアラビアとの関係悪化だけにとどまらず、欧米諸国やロシアを含めた世界経済に大きな影響を与える可能性があると言われています。LNG輸出大国であるカタールが、OPEC脱退によってもたらす原油価格への影響と、エネルギー輸入国の勢力図が大きく変わるかもしれないと言われており、しばらく注意深く見ていく必要があるのです。