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経産省は官民ファンド「高額報酬」をなぜ認可しなかったのか?

2018年9月15日に発足したJICの取締役9人が12月に辞任を表明しました。この辞任の背景にあったのは高額報酬を認可しなかった経済産業省との溝です。経済産業省は一度提示した高額報酬を白紙撤回することを申し入れましたが、JIC側はその撤回を飲まず最初に提示された高額報酬のまま申請を行いました。これを受けて経済産業省はJICを認可しないという決断を下したので、取締役9人が不服として辞任したのが一連の流れです。

官民ファンドJICの役員報酬を経産省が認可しなかったのはなぜ?

この問題の最大のポイントとなっているのが、経済産業省がJICの高額報酬を認めなかったことです。

2018年9月21日の段階では官房長が書面にて取締役の報酬を提示しており、その額は基本報酬1550万円、短期業績連動報酬4000万円、長期業績連動報酬7000万円という高額なものでした。つまり、高額報酬はJIC側が言い出したものではなく、経済産業省側が先に言い出したものです。しかし、この報酬は11月6日に白紙撤回され、高額報酬は認められないことになりました。9月21日から11月6日の間に経済産業省が判断を変える何かがあったということです。その何かについてはある程度明らかになっています。

最も影響を及ぼしたとされるのが新聞報道です。ある新聞報道によって官民ファンドの高額報酬が伝えられました。その報道によって年収換算では1億円をこえる可能性もあると世間に伝えられたため、インターネット上などでは報酬が高すぎるのではないかという声が上がり始めました。この動きを敏感に察知した経済産業省が提示を撤回し、高額報酬を認めない方に舵を切ったということです。官民ファンドJICの高額な役員報酬を認可しなかった直接の理由は報道と、それに伴う世論といえるでしょう。経済産業省の事務次官は高額報酬を認めないことについての協議をJIC側と行いましたが決裂しました。JIC側は経済産業省の白紙撤回を受け入れず申請を行い、それが交渉決裂の決定打となりました。経済産業省大臣は役員報酬額について方針展開を行ったことについて非があると認めています。非を認めて高額報酬を不認可としなければならないほど、この役員報酬について国民の厳しい目が注がれていたということでもあります。

確信投資機構(JIC)経営陣の高額報酬は何が問題か

官民ファンドJICの役員報酬は少しややこしいシステムになっていますが、年収に換算すると1億円にせまるほど高額になる可能性もありました。一方で大企業の中には役員報酬が1億円を超えているところも多くあります。官民ファンドに集まった役員の方々は日本を代表する手腕の持ち主ばかりなので、1億円以上の報酬をもらっていても不思議ではないかもしれません。

しかし、ここで問題となるのが、JICが官民ファンドであるということです。官民ファンドへの報酬は税金から支払われることになります。日本の財政状況が良くないことはほとんどの国民が知っていることなので、税金から高額な報酬が支払われるということは世論の反発を招く可能性が高いといえるでしょう。また、税金から収入を得ている人物の中で最も高収入なのは内閣総理大臣や衆参議院の議長、最高裁判所長官といういわゆる三権の長となっています。こういった方々であっても報酬が年に1億円をこえることはありません。官民ファンドの役員が三権の長を遥かに超える報酬を税金からもらうということになれば、違和感を感じる方も多いでしょう。そういったことからJIC役員への高額報酬は経済産業省が認可しませんでした。

一方で官民ファンドの役員となっていた方はいずれも一流の企業家、マネージャーばかりです。こういった方々の中には別の組織で数億円の収入を得ている方もおられます。官民ファンドで働くことで大幅な収入源となってしまう可能性もあります。このように公営と民間には給与事情に大きな隔たりがあり、収入面にどこで折り合いをつけるかが重要となります。もちろん、国民から納得されなければ政権にダメージが及ぶ可能性もあります。

2019年には参議院選挙があり、場合によっては衆議院の解散もあると予想されており、世論で大きな批判を招くわけにはいかないという事情も関係している可能性があります。また、2019年10月には消費税の増税が予定されています。財政状況が悪いことによって税金を上げる一方で、官民ファンドに高額報酬を支払うとなればさらなる批判に繋がる可能性もあります。そういった様々な事情があったため、経済産業省は提示を撤回してでも高額報酬を不認可せざるを得なかったといえるでしょう。

官民ファンドの経営陣の人選・役員報酬は透明であるべき!

官民ファンドは報酬が税金から支払われる仕組みになっており、経済産業省という国の機関が主導して認可を行うことからも事実上の公営企業に近い特徴を持っています。そのため、官民ファンドの人選や役員報酬には透明性が求められます。官民ファンドの運営もまた税金を使って行われますが、この経営に問題があればたくさんの税金が無駄になってしまう可能性もあります。

この方々であれば税金を使った運営を任せられるという人物が選ばれなければなりません。しかし、官民ファンドの役員たちを国会議員のように選挙で選ぶわけにはいかず、基本的には経済産業省に一任されることになります。経済産業省は官民ファンドの役員についてどういった基準で選んだかということを国民に説明する必要があります。また、単に経営手法が優れているだけでなく、人間性が優れた人物を選ぶことが大切です。官民ファンドの経営は税金を使用している分、一般企業の経営以上に慎重に行われる必要があり、場合によっては国民への発表などを実施する必要があります。手腕と人間性が両方とも評価される人物でなければ、国民を納得させることは難しいでしょう。

役員報酬についても国民が納得する内容になっていることが欠かせません。今回提示された報酬は高額であるだけでなく、そもそも具体的な金額が分かりにくいという問題もありました。使用されるのは国民からの税金なので誰が見ても分かるような報酬システムにする必要があります。金額についても納得できるものでなければなりません。あまりにも高額であれば税金の無駄遣いと批判されますが、低額すぎると優秀な人材を集めにくくなります。ある程度高額な報酬になってしまうことは仕方ないともいえるでしょう。しかし、今回のように三権の長の給料を大幅に上回る報酬が支払われることになれば批判は免れません。成功報酬の面を強くして結果重視の収入にすることは納得を得られやすくする工夫の1つです。いずれにしても、国民からの意見を聞くなど、世論をくみ取ろうとしているかどうかについても重要となります。経済産業省だけの判断に任せるべきかどうかについても色々な意見があります。官民ファンドで行う業務の内容は確かに経済産業省の管轄となる内容ですが、ファンドの運営内容によっては外務省や総務省とも関係のある事業となります。また、役員報酬や人選については国会で議論されるべき事柄の1つです。その際には三権の長や民間企業の報酬なども参考にされる必要があります。金額だけでなく、その決定プロセスまでを含めて多くの国民から賛同を得られなければならないことは間違いないといえるでしょう。

まとめ


官民ファンドの必要性については認められつつあります。しかし、その報酬金額はあまり議論が進めておらず、どのくらいの金額が適正であるか様々な意見があるといえるでしょう。税金で支払われるという仕組みなので極端に高額にするべきではないといえますが、ある程度高額にしないと優秀な人材を集めることが出来ないという点も指摘されています。どのような決断を下すにせよ、報酬について今回のようにすぐに白紙撤回しなければならない事態としないように先を見据えた決定が必要となります。