不動産業界で気になる変化が起きています。アベノミクスの追い風を受けた不動産業界は順調に成長してきましたが、ここに来て融資姿勢の厳格化という課題に直面しているのです。2020年に開催される東京オリンピックまで順風だと思われていた経済環境も、国際情勢の変化という向かい風が吹き始めるなど不確定要素が増しつつあります。私たちの生活に影響を与える不動産業界で何が起こっているのでしょうか。
不動産融資の審査が通りづらくなっている理由
2018年のスルガショック。これが不動産融資の審査が厳しくなった背景にあります。静岡県沼津市に本店を持つスルガ銀行が関わった事件の影響を総称しているものであり、不動産業界や金融業界にじわじわとダメージが広がっています。事件の発端となったのは、株式会社スマートデイズの破綻でした。東京を拠点に女性向けのシェアハウス事業ブランド「かぼちゃの馬車」などを展開していましたが、約60億円もの負債を抱えて事業に行き詰まったのです。
スマートデイズは2012年に創業してから数年で売上高317億円(2017年3月期)に達するほど急成長し、不動産業界やメディアからも注目を集めました。しかし、同年10月に経営状況が急激に悪化、2018年4月には民事再生手続きを申請したのです。スマートデイズを急成長した背景にはサブリースがありました。サブリースを一言で説明すると、不動産を一定期間管理する代わりに賃貸料の一部をもらうというビジネスです。具体的には不動産収入を得たい個人投資家を中心に投資を募ります。その資金を使って不動産オーナーから土地・建物を一括して借り上げ、シェアハウス事業による賃貸収入の中から手数料を得て、その一部を投資家への配当に回すというものです。不動産オーナーにとって管理する手間が省け、新築であれば30年も賃貸収入を得られるといったメリットがありました。また、スマートデイズはシェアハウス建設費用を不動産オーナーに出してもらうため負担しなくて済み、管理手数料を得られます。一見すると画期的なビジネスモデルに見えますが、実際には自転車操業でした。
スマートデイズの急成長のからくりは、建築によるキックバックにありました。通常は2~3%前後が業界の常識ですが、スマートデイズは建築主から約50%ものキックバックを得ており、これを不動産オーナーへの賃料支払いに充てていたのです。しかし、実際のシェアビジネスでは増え続ける物件に対して入居者が追いつかず、赤字状態でした。サブリース契約や新築が滞るようになるとキックバック収入が激減し、不動産オーナーへの賃貸料支払いが困難になり、民事再生申請に至ったのです。スマートデイズとサブリース契約をした不動産オーナーに約1,000億円もの融資をしていたのがスルガ銀行であり、これがスルガショックの始まりでした。
通帳の数字を改ざんして融資審査を通していた一部金融機関
この問題を複雑にしたのが一部金融機関の融資姿勢でした。銀行から融資をしてもらうには審査に通らなければなりませんが、スマートデイズは不動産オーナーの通帳の数字を書き換えるなどプロフィールシートを含む審査書類を改ざんし、信頼があるかのように見せていました。また、スルガ銀行の窓口である横浜東口支店は低迷する企業融資から不動産事業融資拡大を目指すという大目標のため、スマートデイズの不正行為を見て見ぬふりするという過ちを犯したのです。
スマートデイズの破綻に際して、市場や金融当局の関係者の頭をよぎったのがリーマンショックのきっかけとなったサブプライムローン問題でした。不動産を舞台に起きたという点や一部金融機関による野放図な融資姿勢が似ていたためです。幸いなことにリーマンショックのような金融・経済不安は現在まで起きていませんが、ジリジリと不動産市場や金融機関に影響を与えつつあります。スルガショックに対し、3大メガバンクは2018年10月に不動産融資の審査厳格化指針を発表しました。日本を代表する3大メガバンクが対策を示したことで、他の金融機関も揃って審査基準を厳格化するなど不動産融資の審査が通りづらくなった背景にはこのような動きがあったのです。
不動産融資の審査が厳しくなることで、最も影響を受けるのが資産の少ない不動産オーナーです。スマートデイズは資産の少ない不動産オーナーの資産状況をよく見せることで資産評価以上の融資を受けられるようにしていましたが、今後は資産状況に応じた融資しか受けられないことになります。また、一般サラリーマンのような資産の少ない不動産投資家も影響を受けるため、良い物件を見つけても審査に時間がかかったり、審査に落ちてしまって投資機会を失うことも考えられます。ただし、住宅融資は影響を受けにくいと言えます。審査の厳格化は不動産投資を対象としているため、一般的な住宅融資が影響を受けることはほとんどありません。ただし、住宅ローンの返済期間が残っているのに不動産投資を考えている方は影響を受けると考えられます。
多くの銀行が同じトラブルをかかえている?
3大メガバンクが示した審査基準の厳格化で騒動は一件落着したと思いたいところですが、市場では他の銀行も同じトラブルを抱えているのではないかという噂が囁かれています。2013年には東日本銀行が根拠不明な融資手数料を徴収していたり、融資の一部を定期預金に回させるといった不正行為を理由に金融庁から業務改善命令を出されており、スルガショックと関連付けて再び注目を集めました。この他にも不動産投資大手TATERUも不動産オーナーや投資家のプロフィールを書き換えるなど、銀行を騙して融資を得ていた事実が明らかになっています。中にはメガバンクや準メガバンクまでが被害を受けているのではないかという不安が広がるなど、解決までは長引きそうな雰囲気です。
3大メガバンクや準メガバンクといった日本を代表する大手金融機関が同様の問題を抱えている場合はバブル崩壊並みのダメージを受けるとも指摘されていますが、2016年を境にメガバンクは審査基準を厳しくしていることから問題は小さいと考えられています。むしろメガバンクや準メガバンクが審査基準を厳しくしたことで、不動産融資の先頭に躍り出た大手地方銀行が懸念されています。これらの大手地方銀行はフルローンを組む際にも1%を切るような超低金利で対応していたため、同様の問題を抱えている場合は地方経済に衝撃を与える可能性もあります。
「かぼちゃの馬車」の不動産オーナーのほとんどに融資していたスルガ銀行では横浜東口支店が中心となり、黙認する形で不正融資に加担していたため、他行でも融資担当者や支店単位で同様の問題を抱えている可能性もあり得ます。この事件の背景には銀行本店の経営方針に加えてノルマの厳しさ、他行や金融機関との激しい競争、支店の権限の強さ、コンプライアンスの不徹底、スマートデイズのような持続不可能なビジネスモデルなど複数の要因が積み重なって起きたと考えられるため、もしかしたら水面下で発覚していない問題があるかもしれません。
不動産投資家やこれから投資を検討している方にとって厳しい環境ではありますが、一定の資産を持つ投資家にとってはチャンスでもあります。競争相手が減少することで優良物件への投資機会を手に入れやすくなりますし、物件によっては投資家が減少することで値下がりすることも考えられます。そのため、審査が通りづらくなったことを好機と見ることもできるのです。
【まとめ】不動産投資の原点を大切に
不動産融資の審査が通りづらくなった理由について触れてきましたが、安易なビジネスモデルやずさんな融資姿勢が不動産市場全体に悪影響を与えるなど現在も不安や不信を払拭できないでいます。しかし、競争相手が少なくなった今こそが不動産投資のチャンスとも言えます。不動産投資をするなら営業マンの言葉を鵜呑みにせず、市場のニーズや動向に注意を払うなど不動産投資の原点を大切にしましょう。