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旧東芝クライアントソリューションが「ダイナブック」社に変更


急速に進むグローバル経済や日進月歩のスピードで変化するテクノロジーなどの影響で、国内外を問わず多くの企業が生き残りをかけて他企業の買収や統合を行なっています。そのような状況の中で近年注目されているのが、日本メーカーを買い取り対象とした買収です。この記事では、東芝クライアントソリューションが、買収された結果「ダイナブック」に社名を変更したことについて解説します。

「東芝クライアントソリューション」が「ダイナブック」に社名を変更


2019年1月1日、東芝クライアントソリューション株式会社がDynabook株式会社(ダイナブック株式会社)に社名を変更しました。東芝クライアントソリューションは東芝のパソコン事業が分社化したもので、ダイナブックとはその東芝が販売していたノートパソコンのシリーズ名です。同社の代表取締役会長である石田佳久氏は社名を変更した上で、「ダイナブック」を前面に押し出すブランド戦略を発表しています。

会社名にその会社が扱う製品名を付けるということは、その製品がその会社の主力事業であること、そして社会に広く認知されていることを意味します。実際、「ダイナブック」を含め東芝が手がけるパソコンは、日本のパソコンの歴史に大きな影響を与え続けてきただけでなく、世界中のパソコンメーカーにも多大な影響を及ぼしてきました。

1981年に発売された8ビットパソコンの「パソピア」シリーズから始まった東芝のパソコンは、1985年のポータブルパソコン「T1100」で世界中から注目されるようになります。ここから、東芝はポータブルパソコンのリーディングカンパニーとして市場を開拓し、13年連続で世界ノートパソコントップシェアを維持するなどの実績を残しました。ダイナブックブランドのパソコンが初めて市場に投入されたのは、NEC製の「PC-9800」が日本の国内市場では多くのシェアを占めていた1989年のことです。ダイナブックの投入に危機感を持ったNECの幹部はそれに対抗できるパソコンの開発を指示し、3ヶ月半ほどで「98NOTE]というポータブルパソコンを販売にこぎつけたほどでした。東芝は、その後も2010年度にはダイナブックなどのパソコンを、年間約2500万台出荷する計画を立てるなど、現在に至るまで積極的にパソコン事業を展開してきました。

社名を変更した背景と今後の展開は?


東芝クライアントソリューションがダイナブックに社名を変更した背景には、同社が東芝から他の企業に売却されたという事情があります。東芝はパソコンの他、冷蔵庫や洗濯機などの白物家電から原子力発電所などのインフラまで広くカバーする、日本の総合電機メーカーでした。その最高の売上高は4.9兆円、従業員数は最大で15万人に及ぶほどです。そのような大企業の東芝がなぜ、名門であったパソコン事業を手放すことになったのでしょうか。

東芝がパソコン事業を売却した要因の一つは、パソコン事業自体が稼げる事業ではなくなってきたことです。すでに説明したようにかつては世界中で高い評価を得てきた東芝製のパソコンですが、2016年度にはおよそ5億円の赤字、2017年度にはおよそ96億円の赤字になるなど赤字体質に陥っています。このようなことになった原因としては、グローバル経済の進展で中国などアジアのメーカーのパソコンが低価格を売りに躍進したことや、すでにパソコンが日本国内では普及しきったため販売の伸びしろがなくなってきたことなどが考えられます。いずれの理由にせよ2010年に年間2500万台の出荷を目指すほどであった東芝製パソコンの販売数は、今や年間200万台以下に縮小しています。そのため、販売数がそのまま利益に直結するパソコン市場で東芝は稼げなくなっていたことは間違いありません。

この東芝のパソコン事業が赤字体質であったことのほかに、東芝で巨額の不正会計事件が発生したことも、東芝のパソコン事業が売却された要因に加えられるでしょう。これは東芝が2008年度から約7年間合計で1500億円以上も儲けを水増ししていたというもので2015年に発覚したのですが、この不正会計の舞台のひとつがパソコン事業部でした。この不正会計問題はパソコン事業のみにとどまらず東芝全体揺るがすようなものであったので、責任を取るような形で事業の縮小が実行され、結果として他社に売却されることになったと見ることができます。

ここまで東芝のパソコン事業会社が他の会社に売却されたということを解説してきましたが、具体的な売却先の企業は東芝と同じ電機メーカーのシャープ株式会社です。すなわち、東芝クライアントソリューションはシャープに買収された後に、ダイナブック株式会社に名称が変更されました。シャープはかつてパソコン事業を所有していたものの撤退した経緯があるので、結果的にシャープのパソコン部門が復活することになります。今後ダイナブック社はシャープの子会社として、及びシャープを買収した鴻海精密工業のグループ会社として黒字化を目指すことになっています。

なお、シャープが東芝クライアントソリューションを買った時の価格は約40億円である一方、東芝のいわゆる虎の子であったヘルスケア事業がキヤノンに買収された時の価格は6655億円あまりです。また、東芝の白物家電部門が中国のマイディアグループ(美的集団)に売却された時の価格も約537億円と東芝クライアントソリューションの価格よりもずっと高いものとなっています。いくらヘルスケア事業や白物家電部門がパソコン事業よりも有望であったとはいえ、ここまで買収価格に差があると東芝のパソコン事業をシャープはかなりうまく買ったと見ることができるでしょう。

2020年の目標売上高は?〜黒字化を目指す決意を表明〜


2018年12月、東芝クライアントソリューションは社名をダイナブックに変更すると発表したのと合わせて、「ダイナブック」ブランドを海外でも展開し事業を拡大していくことを表明しました。この時に公表された中期経営計画では、「2018年度は1600億円の売上高で営業損益は46億円の赤字が見込まれるが、2020年度には売上高3400億円・営業損益70億円の黒字にまで転換する」としています。さらには、3年後を目処としたIPO(新規株式公開)も予定しているようです。

ダイナブック社の社長兼CEOの覚道清文氏によると、現在の同社は過去数年間のうちになされた構造改革の結果、海外での売上が大きく下落し、製品の種類や営業力などで他社に劣っているとのことです。そのためダイナブック社は黒字化の作戦として、まず法人向けを立て直した上で「ダイナブック」ブランドを海外でも積極的に展開していくことを当面の目標としています。

法人向けを立て直す具体的な方法として、個々の法人に合わせたセキュリティの高いパソコンを提供することを予定しているようです。また現在はノートパソコンが中心となっているラインナップに加えて、デスクトップ型やサーバー用のダイナブックもラインナップに加えて行くことを計画しています。海外展開では、シャープの海外営業部隊も活用して、ダイナブックなどのパソコン製品を拡散していくことを考えています。シャープはPOSレジや業務用プリンターなどの製品をすでに北米やヨーロッパで販売しており、そこに相乗りしてダイナブックも売り込んでいくとのことです。

なお現在「dynabook」の商標は日本国内でしか使用されていません。そこで2019年以降は海外向けの製品についても「dynabook」という商標を統一して利用し、ブランド力を高めていくとしています。

まとめ


かつての東芝が手がけたノートパソコンの名門ブランド「ダイナブック」は昔のように強い勢いはないものの、売却先で会社の名称に用いられるほどの求心力およびブランド力は維持されています。ダイナブックは、市場環境の変化や競合他社の台頭などで国内でのパソコン販売が伸び悩んでいるため、法人向け及び海外展開に活路を見出していくとのことです。