事業継承などをする際には、その企業の価値を見極めます。しかし、「企業の価値」といっても、数値化しにくいものがあったり、将来価値を加味するのが難しかったりします。その読みにくい価値を算出する方法が「DCF法」「類似会社取引事例法」「時価純資産法」の3つの方法になります。そこで今回は、この3つの計算方法や概要を解説します。企業価値の算出をしたい人は活用ください。
DCF法
「DCF法(ディスカウント・キャシュフロー法)」とは、企業の事業が生み出す将来的な利益を予測して、その利益に一定の割引率を掛けて現在の価値を算出する方法です。企業価値を算出するときのDCF法は、以下のステップにより算出されます。また、不動産の投資物件でもDCF法がありますが、根本的な考え方は同じです。
・ 将来のキャッシュフローを予測
・ WACC(加重平均資本コスト)算出
・ 企業価値の計算
● 将来のキャッシュフローを予測
まずは、企業や自由に使えるキャッシュである「フリーキャッシュフロー」の現在価値を算出します。フリーキャッシュフローは、「税引き営業利益+減価償却費-運転資本増加額-設備投資額」で求められます。税引き後営業利益という「本業の儲け」に減価償却という経費計上できる部分を足します。そこに、運転資本が増加した分と設備投資額という、将来の支出を差し引くというわけです。
● WACC算出
WACC(ワック)とは、日本語で言うと「加重平均コスト」のことです。WACCの計算式は以下のように少々複雑になります。
計算式:Y/(Y+K)×H(1‐Z)+K/(Y+K)×S
Y:有利子負債 K:株主資本時価 H:負債資本コスト Z:実行税率 S:株主資本コスト
有利子負債額とは、有利子負債(借入金や社債など)の時価、株主資本コストは株式の時価総額、負債資本コストは有利子負債の金利、実効税率は損金を加味した予想税率、株主資本コストは投資家が求める期待収益率です。
つまり、この計算式によって、負債資本コストと株主資本コストを、それぞれの比率に応じて加重平均しているということです。この計算式を暗記する必要はありません。計算式によって「何が」算出できるかを考えることが重要です。
● 企業価値の計算
企業価値の計算は、上記のフリーキャッシュフローをWACCで割り引く計算になります。最終的にDCF法での企業価値の算出は、この3ステップを踏みます。
類似会社取引事例法
類似会社取引事例法は、「類似企業比準法」や「マルチプル」とも表現されます。類似会社取引事例法とは、企業価値を算出したい企業と似たような企業を選び、その企業と色々な要素を比較して企業価値を算出するという方法です。類似会社取引事例法は以下のステップにより算出されます。
・ 類似企業の選定
・ 各種倍率の算出
・ 調整
● 類似企業の選定
まずは、算出した企業と似た企業を探します。似た企業とは、「業種」「市場規模」「収益」などのことであり、その企業のロールモデルになる企業を選定します。一般的には10~15社ほどに絞った上で、以下の要素でさらに絞り込みます。
◆ サービス
◆ 商品
◆ 事業規模
◆ 成長性
◆ ビジネスモデル
◆ 財務や資本個性
つまり、ソフト面からもハード面からも似ている企業を選定して、その企業の将来価値を見出すというものです。
● 各種倍率の算出
前項で選定した企業と複数の要素を比較して適正株価を計算します。「複数の要素」とは業種や事業規模、そして目的によって異なりますが、一般的に利用される要素は以下3点です。
◆ 利益
◆ 純資産
◆ 配当など
● 調整
上記を加味して企業価値を算出した後に、会社・事業規模、今後の流動性などを加味して最終調整を行います。最終調整を行った後の価値が、類似会社取引事例法での最終価値となります。
時価純資産法
時価純資産法とは、検証したい企業が保有する全資産を時価換算して、そこから時価負債を差し引き、実質的な資産額を求める計算方法です。要は、「その企業が保有する資産の本来の価値を算出する」ということになります。
会社保有の資産の中には不動産などの有形のものもありますし、商標権や著作権などの無形資産も含まれます。注意点は、この考えではその企業が将来的に生み出す利益が加味されていない点です。そのため、将来生み出すであろう利益を「営業権」として評価して、営業権を足した価格が時価純資産法で算出した最終的な企業価値です。
企業価値の算出
このように、自社の企業価値を算出するときには、主に上記3つの方法を使用します。大事なのは、それぞれ「どのように」企業価値を算出するかという点です。この点を理解しておけば、企業価値が客観的にどのように見られているかを知ることができます。