グローバル化が急速に進展し市場での競争が激しくなる一方で人手不足も深刻化している昨今、時代の流れに追いつくことができず廃業してしまう会社は中小企業を中心に少なくありません。そのような会社の廃業を防ぐ一つの手段が事業承継です。この記事では、個人でも会社を買うことができる現代の事業承継事情とはどういうものかを解説します。
個人が貯金の範囲内で会社を買収する時代に
「会社を買収する」と言うと多くの方は大企業が別の会社を傘下に収める、あるいは別会社の事業部門を買い取るということをイメージするかもしれません。確かに企業の買収は多くの場合において、ある企業が別の企業の議決権の概ね過半数を取得することで成立します。しかし現代においては、買収は必ずしも企業間で行われるものでなく、個人によっても行われるものにもなっています。個人によって企業の買収が行われるということは、逆に言えば個人の預貯金の範囲内で企業が買えるということです。
個人でも買収することができる会社というのは基本的に中小企業です。企業買収できるということは、つまり売りに出される企業が存在するということですが、経営者が企業を手放す理由はいくつか存在すると見られています。
一つ目は経営環境の悪化です。国内では少子高齢化が進み製品やサービスの消費人口が減る一方で、世界全体を見渡すとグローバル化が進んでいるため、それぞれの企業の経営環境は必ずしも順調ではありません。そのため、不採算事業や今後の成長が見込めない企業を売却しその売却益を将来有望な部門に振り分けたり、不採算部門を切り離したりすることで売上をあげようとする経営者も当然存在します。
企業が売りに出される二つ目の理由としては、後継者の不在が挙げられます。昨今の日本では労働者の人手不足が声高に叫ばれていますが、中小企業の後継者についても同じような状況にあります。とある報道によると跡継ぎがいない中小企業は現在の時点で、全体の7割にも当たるとのことです。後継の経営者がいないとなると会社は成り立たなくなってしまいゆくゆくは廃業せざるを得ません。そのような際に、「廃業するよりは別の会社あるいは個人に事業承継をしてもらった方が良い」という判断がなされる場合にも、会社は売りに出されます。
会社の売値はその会社の規模やそれまでの実績によって千差万別で、億単位の値段がついている会社もあれば数百万円で買うことができる会社もあります。例えば、社員が少人数の会社や経営者とアルバイトのみで事業を行っている会社などは一千万円以下の値がついている場合もあり、個人でも十分に買い取ることができます。価格が安い企業をうまくM&A(合併と買収)することができれば、新たに事業を立ち上げる場合よりもコストと時間を節約することが可能です。また、その買収対象の企業に固定客がついている場合などは、売上が確保できるか分からないと言うリスクも軽減できるでしょう。
もっとも、会社を買ったところでそれをうまく経営できるかわからないと考えている方もいることは想像に難くありません。もちろん会社を経営するということにはリスクは伴いますが、従業員が30人以下の中小企業を、企業勤めを経験した人が買った場合、経営がそれほど難しくないという見方があります。なぜそう見ることができるのかと言うと、中小企業を経営するのに十分な経験と知識を会社員時代に得ていることが多いからです。
例えば、30人ほどの社員をマネジメントすることは中間管理職まで勤めた人にはさほど難しくはないでしょう。また、元いた職場で導入していた効率の良いシステムなどを、買収した企業に導入して、利益率の向上を図ることができるかもしれません。中小企業には良くも悪くも昔の仕組みをそのまま受け継いでいるところも多いので、そこに新しい風を吹かすことができるならば、企業の買収や事業承継は成功すると言っても過言ではありません。
個人で会社を買収するにはどうすればよい?
企業の買収は、基本的にその買収対象の企業の議決権の過半数を取得すれば成立するので、その会社の経営者と知り合いである場合などは株式の譲渡などによって行うことができます。そうでない場合は、「M&A仲介サイト」などを通じて企業を買うことになります。
M&A仲介サイトを利用する場合、まず閲覧するのはそのサイトのM&A案件情報ページです。そのページには、その会社の業種やどのような事業を行っているか、最近の売上高、会社がどこの地方にあるかなどといった情報が一覧になって記載されています。そのそれぞれの案件の営業利益、従業員数、譲渡スキームなど詳細情報を確認し興味を引く会社を見つけたら、次は会員登録をしてより具体的な情報を入手します。(なお、その売りに出されている企業が特定されないようにするためサイト上では社名まではわからない場合が多いです。)その後、もしその企業を購入したいという段階になった場合、M&A仲介会社と契約をして、その社名を教えてもらい、社長との面談やM&Aの交渉を行います。
M&A仲介サイトの一つは「Batonz(バトンズ)」というサイトです。このサイトは日本M&Aセンターのグループ企業であるアンドビズ株式会社によって運営されており、会社の希望譲渡額が1億円以下の案件が多く、数万円台のものも掲載されていることが特徴です。
企業の売却及び毎週に関するセミナーなども開催しています。また、東京証券取引所の一部に上場している株式会社ストライクが運営する「SMART」も代表的なM&A仲介サイトです。このサイト上の案件はバトンズのものに比べると希望譲渡額が高いものが多く、1億円以上のものが多いです。
M&A仲介サイトを利用する以外には、「事業引継ぎ支援センター」を通して企業の買収や事業承継を行うという方法もあります。事業引継ぎ支援センターは独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営する公的な期間で、各都道府県に設置されています。同センターの特徴は、事業引継ぎに関するあらゆる相談を無料で行なっていること、譲渡までの一連の手続きや契約書の作成等のサポートも承っていることなどです。また、そのセンターが置かれている地域のみではなく全国から事業の譲受候補企業を紹介することもしています。事業引継ぎ支援センターで紹介される案件には、数百万円で購入できるような企業も多数含まれているようです。
極端に安い金額で購入できるケースも
中小企業を買収する場合の金額は、最も安いと300万円から500万円ほどで済む場合もあるようです。300万円というのは極端な例であるとしても、そのような値段がつく合理的な理由もあります。それは会社を廃業することにもコストがかかってくるということです。
例えば、工場を所有するような企業が廃業するとなると製品や設備を廃棄することが基本的に必要ですが、廃棄のための費用がかかります。また何らかの商品を小売する企業が廃業に際していわゆる閉店セールを行い原価割れの価格で商品を売るような時も、計算上はコストが発生してしまいます。また、廃業のコストは金銭の問題にとどまりません。企業を廃業すれば従業員は解雇せざるを得ず、取引先にも負担をかけることになり、経営者は心理的な負荷も受けなければならないのです。
このような現状があるため、様々なマイナスの要素を抱えてまで会社を廃業するよりは、本当に安くても良いので買ってもらったほうがいいという場合も多いです。そのような場合、企業の売り出し価格はとても安いものになる傾向があります。
【まとめ】企業の買収をしてみたいと思ったら
ここまで述べてきたように、経営環境の悪化や後継者不足のために廃業の危機に瀕している中小企業が数多く存在する現在においては、個人が会社を買収するチャンスは広がっていると言えます。企業の買収に興味がある方はこの記事で紹介したいくつかのポイントを確認した上で、まずはどのような企業が売りに出されているか調べてみることから始めてはいかがでしょうか。