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事業継承のM&Aが失敗してしまうよくある理由

中小企業にとって、事業承継のためのM&Aはうまくいけば、会社を次の代に安心して譲り渡すために有効な手段となります。しかし、やり方を間違えてしまうと、安心して譲り渡すどころか、会社をだめにしてしまう原因にもなりかねません。そこで、事業承継のためにM&Aを行ったものの、失敗してしまう3つの理由について解説しましょう。

間違った仲介業者を選んでしまう


理由の一つとして考えられるのは、間違った仲介業者を選んでしまうことです。ここで、間違った仲介業者を選んでしまう原因について、考えてみましょう。

まず、「ネームバリューだけで選んでしまう」ことです。仲介業者の一つとして、M&A専門のコンサルティング会社が考えられますが、その企業規模は様々です。全国でビジネスを展開している企業もあれば、地域に根差したサービスを提供している会社もあります。しかし、「なんとなく大手なら安心」という理由で、大手の仲介業者を選んでしまうと、失敗する可能性もあるのです。これを防ぐためには、まずはその企業の実績や得意とする業界・分野をチェックしましょう。小規模であっても、事業承継を行う会社とのマッチング度が高いようであれば、一度相談するのも選択肢の一つです。

また、「担当者とのコミュニケーション不足」も、間違った仲介業者選びの原因になります。事業承継のためのM&Aは、会社にとってはいわば「嫁ぎ先を探すこと」です。つまり、結婚相手を選ぶのと同じくらい、当事者の意向をくみ取り、最善の判断を下せる担当者と組めるかがカギになります。しかし、担当者と上手にコミュニケーションが取れないようだと、意向をうまく伝えられません。結果として、M&A自体が失敗に終わりかねないのです。「聞いたことに答えてもらえない」「連絡がスムーズに進まない」など、担当者とやり取りをする中で違和感を覚えた場合は、躊躇せずに担当者を変更してもらいましょう。担当者を変更しても、納得がいく対応にならない場合は、業者自体の変更を見据えて動くのも一つの手段です。

さらに、報酬体系についても注意を払う必要があります。仲介業者の報酬体系は、個々の企業によって若干の違いはありますが、1)着手金、2)中間金、3)成功報酬の3種類の報酬で構成される場合が多いです。これらの報酬がどのタイミングで、どれだけかかるのかを明確に説明してもらえるかも、仲介業者選びの基準にしましょう。納得がいかない状態で報酬を支払うのは、双方にわだかまりを生む原因となるので、注意が必要です。

また、M&Aによる事業承継は、M&Aの手続きが完了したら終わりではありません。むしろ、M&Aの手続きが終わってからが本当のスタートになります。そのため、仲介業者がPMI(Post Merger Integration)の業務も行えるかどうかも、事業承継の成功を左右するのです。仲介業者に、働いている従業員の待遇・条件の調整など、アフターフォローの実績やノウハウがあるかどうか、必ずチェックしましょう。

元の経営者が継承後も事業に口出しして院政状態になってしまう


事業承継目的のM&Aが失敗する原因として、「元の経営者が継承後も事業に口出しして院政状態になってしまう」が挙げられます。特に、一代で会社を築き上げた経営者がいる会社に多くみられる傾向です。このような経営者の場合、事業承継が済んだ後でも、会社の行く末を心配するあまり、口出ししてしまうのです。

また、元の経営者と事業承継後の経営者の経営方針や性格・考え方が全く違う場合は、注意が必要です。本人はアドバイスのつもりで話している場合も多いですが、社内の混乱を招く原因にもなります。現場の社員が、「一体どちらの言い分を聞けばいいのかわからない」と、右往左往してしまい、事業が進まなくなるのも珍しくありません。

加えて、M&Aによる事業承継が行われる前から長年勤務している社員がいる場合は、さらに慎重さが求められます。事業承継によってもたらされる会社の変化に対し、「新しい社長の方針には従わない」と、あからさまな拒否反応を示すことがあるためです。そうなると、「元経営者派対現経営者派」に社員が分かれてしまい、意思決定がスムーズにいかなくなる恐れもあります。

このような状況を防ぐためには、元の経営者と次の経営者の意向を最大限反映させるよう、M&Aの仲介業者が調整を行うのが必要です。さらに、元の経営者が事業承継後も会長や顧問として会社経営に携わる場合は、「どの範囲まで関与してもらうか」を明確にする配慮も不可欠になります。元の経営者の関与の度合いによって、組織の在り方や報酬の決め方も違ってくるため、綿密な打ち合わせを重ねましょう。

また、当事者となる元の経営者と次の経営者にも、歩み寄りが求められます。「自分は会社をどのようにしていきたいのか」「相手には何を求めるのか」を明らかにしたうえで、前向きな解決策を探ることが、M&Aによる事業承継の成功のコツです。

企業文化の融合ができず多数の退職者が出てしまう


どんな企業であっても、それぞれの企業文化があります。企業文化とは、一言でまとめると、「企業の行動を決定づける価値観」のことです。

具体例としては「個人主義かチームワークか」「成長志向か安定志向か」「年功序列か成果主義か」「トップダウンかボトムアップか」などがこれにあたります。人の場合の「その人の価値観や性格」と考えると、わかりやすいでしょう。

M&Aによる事業承継の場合、どんな企業と合併するか次第で、企業文化ががらりと変わってしまうことも、往々にしてあります。そのような場合に注意が必要なのが「企業文化の融合ができず、多数の退職者が出てしまう」ことです。従業員にとって、企業文化が急激に変化するのは、さしずめ「これまで仲良くしてきた人の性格がガラッと変わってしまう」ほどのインパクトをもたらします。新しい企業文化に慣らしていくプロセスがうまくいかない場合、同じ職場で働き続けられない従業員も出てくるのです。

あまりに人数が多い場合は、企業文化の融合そのものがうまくいかなかったと考え、早急に対策を打つ必要があります。退職者が相次いでしまい、新規の仕事を受けられなくなるなど、企業経営に重要な影響を及ぼすおそれがあるためです。いうまでもなく、M&Aを含む事業承継は、企業を存続させるために行うものですが、やり方を間違えると、企業が存続できなくなってしまいます。

このような事態を避けるためには、M&Aによる事業承継を行う前に、その企業の企業文化を明らかにしなくてはいけません。気が利く仲介業者の場合、事前のリサーチで明らかになった企業文化を踏まえて、比較的似た企業文化を持つ企業とのM&Aを提案してくるでしょう。逆に、「財務体質がいい」「ネームバリューがある」など、合併相手としてふさわしく消える企業であったとしても、企業文化が異なっていては、結果的にうまくいかないこともあるのです。

もちろん、仲介業者にも、企業文化を明らかにするためのヒアリングやリサーチを行う能力が求められます。一方で、事業承継を計画している側にも、「自分たちが大切にしてきた価値観は何か」を仲介業者に伝え、その上でどう事業承継やM&Aを進めたいかを決める姿勢が必要になるのです。

【まとめ】事業承継のためのMAで失敗しないためには?


事業承継のためのM&Aで失敗しないために必要なのは、「人任せにしない」という姿勢です。今回紹介した3つの失敗は、実は「事業承継の当事者が、仲介業者や従業員に働きかけること」で回避できる部分も多く含まれています。「自分たちは、この会社を今後、どうしていきたいのか」を考えたうえで、M&Aを含む事業承継を進めるという姿勢を、忘れないようにしましょう。