中小企業の経営者の高齢化が進む中、いかにして次の世代へスムーズに事業承継できるかは大きな問題となっています。
会社にとって大きな転機となる事業承継ですが、事業承継の際に新事業や新分野への進出などの経営革新を行う場合に行政からの後押しが受けられる事を知っていますか?
この記事では平成29年に創設された「事業承継補助金」についてまとめ、活用するメリットなどを紹介していきます。
事業承継補助金とは?
事業承継補助金とは、事業承継をきっかけに経営革新や事業転換など二次創業をする中小企業を支援する為に作られた制度です。事業承継に必要となる経費を一部補助する事によってスムーズな事業承継を促し、日本経済の活性化を図る事を目的としています。
以前は「二次創業促進補助金」という名称でしたが平成29年度から「事業承継補助金」に名称が変更されていて「経営者交代型であるⅠ型」と「事業再編・事業統合支援型のⅡ型」に分かれています。事業承継をする全ての人が対象ではありませんが、経営革新を計画している場合は活用する事で大きな補助金を得られる制度です。
具体的に補助金の対象となる経営革新としては、新商品や新サービスの開発、新しい販売方法の導入、新たな販路拡大や新市場開拓など事業の活性化に繋がる取り組みなどがあげられます。
また申請を行う企業が地元の発展に貢献している事や、後継者が事業や創業に関する知識を有している事なども補助金を受ける条件になっています。その為企業としては地域で雇用を続けたりなど地域経済に貢献している必要があり、後継者にも3年以上の職務経験か、同業種の他企業であれば6年以上の勤務経験が必要とされているのです。
事業承継補助金を使う事ができる費用としては、コンサルティングなどの専門家に依頼する費用、事業承継後の経営革新を成功させる為のマーケティング調査費、不要になった事業の解体や処分にかかる費用などです。
事業承継に必要なこれらの費用は高額になる事が多いですが、事業承継補助金を上手に活用する事で必要な資金を調達する事ができます。また申請するにあたって事業計画などの経営を見直す必要があるので、事業承継後について改めて考える事が必要になります。
申請した全ての人が採択される訳ではありませんが、仮に採択されなかった場合でも企業の将来についてしっかりとした計画を練る事ができるので、申請準備をするだけでもメリットは大きいと言えます。
事業承継補助金を申請する場合、年度によって時期は異なりますが4月~6月頃の募集に合わせて書類などを提出する必要があります。
申請したい場合はまず「認定支援機関」に相談に行き、地域貢献や経営革新などについての確認書を作成してもらいます。認定支援機関とは商工会議所や、税理士・公認会計士・弁護士などの事務所の事であり、全国に3万か所以上あるので行きやすい所を探して相談してみましょう。
認定支援機関で確認書を作成してもらったら、他の必要書類と一緒に「補助金事務局」に送って補助金の申請を行います。必要書類とは経営者と後継者の住民票、事業計画書、後継者が申請資格を有している事を証明できる書類です。これらを送ると地域審査会で応募資格や事業内容などを審査され、事業承継補助金の採択が決定される流れになります。
事業承継補助金の審査は厳しく、平成29年度では応募総数517件に対して採択されたのはわずかに65件でした。その為ただ書類を揃えるだけでなく、採択される為にはしっかりとした事前準備が必要になります。
採択基準となるのは、独自性、実現可能性、収益性、継続性の4点です。独自性とは自社以外では提供できない事であり、新しい事業にこれまで培った技術や経験が生かされているのかなどが判断されます。実現可能性と収益性は、経営革新の計画が妥当なのかがポイントです。
販売先や必要な人材の確保、具体的なターゲットなどを検討しておく必要があります。補助金を受け取った企業がすぐに経営革新を中止してしまっては意味がないので、継続性も採択の基準となる重要な要素です。
無理のない計画を立て、予想通りの販売先などが得られなかった場合などの対策なども準備しておきましょう。
申請が採択され事業承継補助金が交付される事になっても、すぐに補助金を受け取れる訳ではありません。採択される事が決まった場合は、まず補助金予定額などを記載した「補助金交付申請書」を提出します。
提出には期限が定められているので、必ず遅れないように提出しましょう。また事業承継による経営革新が完了した後も、完了から30日以内に「実績報告書」を提出しなければなりません。
これにより実際に行った経営革新と経費内容について確認されます。確認が終わり次第再び交付金額について審査され、交付金額を事務局が決定してようやく事業承継補助金が口座に振り込まれる流れです。その為実績報告書を出してから交付まで、3ヶ月程度かかる事が多いので注意しましょう。
事業承継補助金が交付された場合、補助金を受け取った後にもやらなければならない事があります。交付を受けた企業は5年間の報告義務があり、事業承継後の経営革新状況や収益状況を事務局へ報告する必要があるのです。
収益状況によって交付された補助金の一部を納付しなければならない事もあるので、正確に帳簿付けなどを行う必要があります。また帳簿や経理書類に関しては、交付から5年間は保管しておくようにしましょう。
【Ⅰ型】後継者承継支援型とは?
事業承継補助金のⅠ型である後継者承継支援型とは、いわゆる世代交代によって経営者が変わる事で起こる事業承継が当てはまります。
企業の経営者が退任し新しい経営者の就任を伴う事業承継、個人事業を事業譲渡する事による承継、 法人から事業譲渡を受け、個人事業を開業する事業承継などがⅠ型の事業承継補助金の対象です。
企業の規模によって補助率や補助額の上限が異なり、従業員が20人以下の小規模企業者か個人事業主の場合は補助率が3分の2以内、補助額の上限は200万円となっています。
それ以外の中小企業では補助率が2分の1以内、補助額の上限は150万円です。また新規事業に加えて既存事業の廃止等を伴う場合は、補助額の上乗せがそれぞれ300万円以内と225万円以内と定められています。
つまり従業員が20人以下の小規模企業者が経営革新に加え既存事業の廃止等を行う場合は、最大で500万円の補助金を受け取れる可能性があるのです。
【Ⅱ型】事業再編・事業統合支援型とは?
Ⅱ型である事業再編・事業統合支援型はM&A型とも呼ばれ、合併や経営統合などによって事業承継される場合などが当てはまります。Ⅰ型よりも対象となる基準が細かく決められている為、事業承継がⅠ型かⅡ型のどちらに当てはまるか分からない場合は事務局に確認をする方が確実です。
Ⅱ型はⅠ型と違って企業の規模で補助率や補助額が決められているのではなく、採択結果が上位なのか下位なのかで異なります。採択上位の場合は補助率が3分の2以内、補助額の上限は600万円となっています。採択下位では補助率が2分の1以内、補助額の上限は450万円です。
またⅡ型でも既存事業の廃止等を伴う場合は補助額の上乗せがあり、それぞれ600万円以内と450万円以内と定められています。つまりⅡ型の事業承継補助金で採択上位だった場合、経営革新に加え既存事業の廃止等を行う事で補助金の上限は1200万円となります。
【まとめ】事業承継補助金を上手に活用しよう
事業承継補助金を受ける事ができれば事業承継後の資金不足を補う事ができ、金銭的な負担が大きく軽減される事が考えられます。だたし決して採択率の高い補助金ではないので、申請した全ての企業が補助金を受けられる訳ではありません。
その為申請をせずに諦めてしまう人も少なくはありませんが、採択されなかったとしても事業承継後の経営と向き合う機会として捉え、改めて経営革新について考える時間として活用してみてはいかかがでしょうか?