人間の寿命というのは永遠ではありません。会社の経営者となって事業の運営を継続している人にとって大きな転換期となるのが事業承継です。自分がずっと会社の経営を続ける事はできませんから、いずれは後継者を見つけ出して事業を引き継がなければせっかく興した会社も経営が成り立たなくなって廃業せざるを得なくなります。ここでは特に中小企業の事業継承について考えていきます。
親族外承継も選択肢にいれざるを得ない環境
昔の日本ではたとえ中小企業であっても親族間での事業承継がごく当たり前でした。そもそも親の会社は子供が引き継ぐものだという風潮がありましたし、子どもの数も多いため一人が会社を引き継ぐ気が無くても、ほかの子供が引き継いでくれるということが多かったのです。しかし現在は事業継承に関する環境が大きく様変わりしています。昔と今では働き方が大きく変化していることもあって、子どもが親の会社を引き継ぐものだとは必ずしも言えなくなってきています。
現在は昔には存在しなかったような業種や職種がたくさん登場してきています。そして現在の若い人たちは全体的に比較的最近登場してきた職種に憧れ、就職したいと思う傾向にあります。一方で親が経営している会社の仕事というのはそれらと比較すると若い人から見ればあまり魅力的な仕事と見られないことが多いです。特に工場関係の業種の場合は若い人は敬遠する傾向にあります。したがって親が自分の会社を引き継いでほしいと思っていても子供側が一切引き継ぐ気にはならず、全く別の企業に就職するというケースが増えてきています。
また大企業に就職して成功をおさめるという事例もあります、大企業で成功をおさめることが出来れば中小企業の経営者クラスの収入を得られることもあります。それでいて経営者と比べると比較的責任が軽いですから、わざわざ同じ収入で責任が大きくなる会社の経営者にはなろうとは考えないでしょう。このように働き方の多様化が特に中小企業の後継者が見つからないことの大きな要因の1つとなっています。
そしてもう1つは少子高齢化です。昔は3人4人兄弟がいることが当たり前でした。例えば長男が事業を引き継いでくれなくても次男や三男が事業を引き継いでくれるということが多々ありました。しかし現在は兄弟2人のところが多く、場合によっては1人っ子という家庭も珍しくありません。すると必然的に自分の事業を引き継いでくれる可能性のある人は少なくなります。特に1人っ子の場合、息子が事業を引き継ぐ気がなくなれば親族間での事業引き継ぎはほぼ不可能となります。
したがって現在では親族外の、自分の企業に長年勤めている優秀な社員に事業を引き継いでもらったり、継承や第三者に対してのM&Aも増加傾向にあります。中小企業を取り巻く事業承継の環境は大きく変化しているといってよいでしょう。
どのように後継者候補を見つけるか
以上のように現在では親族間のみでの後継者選びは難しくなっているのが現状です。自分が経営している会社を廃業させずに、何かしらの形で残したいと考えているのであれば、出来るだけ早い段階で本腰を上げて後継者探しをすることが必要不可欠です。後継者を探すのは早すぎて困ることはありません。準備に時間をかけた方が優れた後継者を見つけることができ、安心して自分の会社を任せることができるでしょう。
まず経営者に求められる能力は何なのかを自分の中で再確認してみることから始めましょう、参考までにある調査機関が現経営者に、自分の会社の後継者に求める能力が何なのかを聞いたところ、最も多かったのが「経営をおこなう覚悟があるかどうか」でした。会社を経営するということは上手くいくことばかりではありません。時には予想しなかった危機が訪れ、経営が傾くこともあるでしょう。そんな状況に負けずに乗り越えることができるような、会社を経営していくという強い意志が後継者には最も求められていることが分かります。
次いでリーダーシップや人間性、決断力が求められている傾向にあります。会社の事業に関する専門知識も重要ではありますが、経営者に関して言えば先に挙げた4つと比べると優先順位は低いと経営者は考えています。
親族ではなく、社内から経営者を選ぶ場合は事業に対する知識は申し分ないものの、会社自体を経営する覚悟を持って入社した人はほぼいませんから、なかなか経営者の候補にはなりづらいのが現状です。ですから会社の経営者候補を外部から募集する場合は従業員とは別枠で後継者として人材を募集する方が育成はしやすいです。外部から自分の会社の後継者を募集する場合はインターネットを最大限に活用しましょう。
インターネットで人材を集める方法の中で、もっとも活用したいのが求人サイトで後継者を募集する方法です。そもそも求人サイトは会社で働きたいという人のみが閲覧するサイトですから、見ている人の意気込みが違います。求人サイトをチェックしている人の中には他の企業で既にある程度経験を積み、さらなるキャリアアップを図ろうとしている人もいます。そういった人が後継者として自分の企業に就職してくれれば、前職でのノウハウも自分の会社に導入することができるため、会社にとっては大きなメリットになります。
そのほか近年ではマッチングサービスを利用して自分の会社の後継者を見つける経営者も増えてきています。マッチングサービスを利用することによって、事業を引き継いでくれる人が現れるのを待つのではなく、こちらから事業を引き継いでもらうように働きかけることが可能です。特に第三者に対してのM&Aによって事業の引継ぎを検討している人は大いに活用すると良いでしょう。
後継者候補を育成するためにどんな経験を積ませるか
自分の会社の後継者が見つかったら、今度は自分の会社を運営できるような人材に育成していかなければいけません。特に運よく自分の息子など、親族が自分の会社を継いでくれることになった場合はまずは自分の会社で働かせないようにするのも一つの方法です。
勤めている従業員にとって会社の経営者というのは絶対的な存在ですから、その子供となると下手に機嫌を害すると自分の立場が危うくなると考えてしまい、どこか遠慮してしまうようになります。血縁者となると会社のルールを守っていなかったとしてもなかなか注意できないものです。
そうなるといずれ会社内のルールを守れない経営者になります。経営者がルールを守っていないとほかの社員がルールを守ろうという身持ちにはなかなかならないものです。すると会社が傾くような重大なミスが発生する場合があります。
また自分の親の会社にずっと勤めていると視野も狭くなりがちなので、親族が後継者となった場合はまずは外部の会社で経験を積ませるようにするとよいでしょう。自分の会社の従業員を後継者に選んだ場合も同様で、一度は外部の会社に就職させて広い視野を持たせるようにすると、不測の事態にも柔軟に対応できるような経営者に育ちます。
自分のわがままがきかない外部の会社に就職して経験を積み、責任者などになって一部の人間を動かす程度の地位になったら経営者としての地盤は出来ているので自分の会社に呼び戻し、本格的に経営者としての経験を積ませるというのも良いでしょう。
【まとめ】中小企業の後継者選びは柔軟にそして早めの準備を
現在は働き方の多様化や少子化に伴って特に中小企業で親族間の後継者を見つけることが非常に困難になっており、事業を自分の代で廃業する会社がたくさん出てきています。スムーズに事業を継承させるには親族間だけではなく、自分の会社の従業員や時にはM&Aを利用して第三者から見つけるなど、柔軟に対応して早めに育成をしていきましょう。